3月5日、北京で第12期全国人民代表大会(全人代)が開幕した。冒頭、温家宝が国務院総理としては最後となる政治活動報告(中国語では「政府工作报告」)を読み上げた。今年の全人代は3月17日まで続き、14日には国家主席、副主席らが選出されるという。

 翌15日には国務院総理などを、16日には国務院副総理以下の閣僚らをそれぞれ選出する。さらに、最終日の17日には新国家主席の演説と新総理の記者会見が予定されている。今回は温家宝国務院総理の最後の政治活動報告を取り上げたい。(文中敬称略)

割れた主要紙の社説

中国全人代が開幕、GDP成長率目標7.5% 国防費2桁増

全人代で、政府活動報告を読み上げる温家宝首相〔AFPBB News

 温家宝の政治活動報告に対する評価は割れた。まずは日本の主要紙の3月6日付社説の見出しを比べてみてほしい。以下の通り、「日経」から「産経」までニュアンスや程度の違いはあるものの、日本の新聞では概ね中国の国防費増を懸念する論調が多かった。

(日経)質の高い経済成長へ道筋を描けぬ中国
(毎日)中国は岐路に立った
(東京)平和的に台頭してこそ
(朝日)軍頼みの大国では困る
(読売)海洋強国化は危険な軍拡だ
(産経)武力の威嚇を強めるのか

 さらに、筆者の勝手なコメントを付け加えれば次の通り。「日経」は経済紙らしく経済政策に注目するが、どうも結論部分が煮え切らない。その点は「毎日」も同じで、中国批判を避けようとでもしたのか、どこか奥歯に物が挟まったような書きぶりだ。

 「東京」は中国に平和的台頭論への回帰を求めているのに対し、「朝日」と「読売」は中国により厳しく、国内不満を解消するための対外冒険主義を戒めている。「産経」は例によって日米による対中抑止を主張する。いずれも軍事面の潜在的脅威に注目しているようだ。

 これに対し、欧米では論調が若干異なる。少なくとも3月7日の時点で、中国の軍拡を懸念する主要紙社説は見つからなかった。恐らく、尖閣問題をめぐり中国との緊張が高まっている日本の方が、欧米よりも、中国の軍事費増大に対する関心が高いのかもしれない。

 例えば、ニューヨーク・タイムズ(NYT)は「(温家宝の)演説では政治改革に一切言及がなかった」と書いていたし、ワシントン・ポストは、中国の国防費増大だけでなく、温家宝が格差や腐敗など未解決問題の存在を認めたことにも言及し、胡錦濤・温家宝体制の下で政治改革が進まなかったことを暗に批判していた。

習近平は改革派か?

 まあ、日米間でこの程度の温度差はよくあること、特に驚くにはあたらない。むしろ今回筆者が最も注目し、かつ驚いたのはウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の記事だ。正確には特派員が書いた記事ではなく、北京在住の米国人学者が寄稿したブログである。

 「中国の両会、今回は違う」と題されたこのブログ、確かに変わっている。今回に限らず、中国の両会(全人代と政治協商会議のこと)については壮大なる茶番劇であり、「名ばかりの政治ショー」といった評価がほぼ定着しているからだ。