前回に引き続き、東京コミュニティスクール(以下、TCS)の取り組みをリポートします。

 TCSの卒業生が口々に言うのが「中学校が物足りない」ということ。「実はそれが一番の今の課題です」とTCSの市川校長は言います。

 卒業生曰く「学校では答えがあることしか教えてくれない」「テストに出題される箇所を教えるだけ」「これだけのことを教えるのになんでこんなに時間をかけるのだろう」「僕の意見を先生は聞いてくれない」・・・。

社会の中での自分の価値を意識させる教育

市川校長の著書『探究する力

 結局、高校進学段階になって海外の学校に進学したり、より自分の関心と将来像に近い専門的な学校に転校したりする生徒もいます。

 ただ、普通の進学コースに乗った場合でも、「どんな成功者にもそのサクセスストーリーの重要な要素として、一見無為と思えたり、寄り道になってしまう時間はあるので、ただ“つまらない”と切り捨ててしまわず、本人なりにどうこの状況を前向きに受け止めていくかが大事だと思います」と市川校長は言います。

 TCSでは、早い段階で自分はどんな職に就きたいのかを自然と考えるようになるようです。社会の中の自分の価値を意識する、真の意味でのキャリア教育が自然となされているからです。

 言うなればシチズンシップ教育ということでしょうか。いい世の中をつくるために自分はどんな分野で活動すべきかという視点を持つのです。

 例えば単に「医者になりたい」ではなく、「なかなか医療を受けられないような地域や、緊急事態が起きた時に現場に駆けつけて医療を施せる活動をしたい」というように、具体的に将来像を考えるようになるのです。

自分は30年後の告別式で何を宣言するのか?

 TCSのテーマ学習の中でもユニークかつ重要なものに、5~6年生を対象とした「個の尊厳」があります。

 このテーマのミッションは「30年後に縁ある人の死に直面した時、その人の死を鏡にし、これからどう生きていこうと考えるかを追究する」ということです。30年後、市川校長の告別式に集まった子供たちがどんな会話をするか、そして自分の志を弔辞で表現するという非常に深い内容です。