近現代アートを集めた国立美術館、ポンピドゥーセンター裏手の繁華街。真冬の宵にもかかわらず熱気の立ち込める路地の風景があった。DJが操る音の洪水とともに、缶ビールを片手にした人たちが戸外にもあふれている。

ますますパリに浸透する日本食。2月のイベントも大盛況

パリで開かれた日本食イベント「Japan Eat Good」。大盛況のベルニサージュの様子(著者撮影、以下同)

 「ランプリムリー(L’IMPRIMERIE)」というギャラリーのベルニサージュ(オープニングパーティー)。缶ビールには「Asahi」のロゴが見え、ビー玉入りのラムネのビンを持っている人もいる。

 勢いのあるブランドやアーティストとコラボレートしたさまざまなイベントを行っているこのギャラリー、2月のお題は「Japan Eat Good」。日本食をテーマにしたイベントが開かれた。

 入り口のドアからしてすでに、日本食の陳列棚のようなデザイン。中に入れば、ポップアート風のディスプレイとともに、清涼飲料水、日本酒、しょうゆや調味料、麺類にスナック菓子など、いずれもメード・イン・ジャパンの品々が行儀よく並んでいる。

ブロックを重ねたように見えるのはコロッケ

 地下に降りると、そこはバーカウンターも備えたスペースになっていて、ベルニサージュのこの日は、おにぎり、コロッケ、巻きずしなどが見目形よく調えられ、招待客に振る舞われた。

 一口サイズで用意されたごちそうは大好評で、みるみるうちに集まった人々の胃袋に収まっていった。

 さて、パリの日本食。この10年ほどを振り返るに、その浸透ぶりは顕著だ。いまやsushiという単語はすっかり市民権を得、郵便受けに入っている宅配のビラでも、ピザよりスシのケータリングほうが多いくらいだし、中華料理店が一夜のうちに日本料理レストランに変身するケースは無数にある。

清涼飲料水はフランス人にとってはとても珍しい自動販売機をイメージしたディスプレイで

 もちろん、これらは我々日本人からすると、“なんちゃって日本食”で、まっとうな和食とは一緒にしないでいただきたいと思うシロモノも多いのだが、ともかく、日常への浸透ぶりという点においては感慨深いものがある。

 一方、高級フレンチの世界では、以前「パリで大人気、日本の野菜」でご紹介した日本野菜栽培家の山下朝史さんがますますの人気を集めているのをはじめ、気鋭のシェフたちが出汁、しょうゆ、豆腐、わさび、ゆずなどの食材を彼らのレパートリーとして取り入れるのが、もはや珍しいことではなくなった。

 レストランのメニューにも、「○○のyuzu風味」とかいう具合に、原語そのままの単語で表記されるばかりでなく、雑誌など一般のメディアのレシピ紹介にもその傾向は広がりつつある。