「もう北京出張は当分行きたくない」――。中国人の友人が出張先の北京から戻ってきた。マスクをしてもノドは荒れ、口のまわりには水泡ができたという。電話の向こうからは、「命からがら帰国した」かのような憔悴ぶりが伝わってくる。

 日本のメディアも連日伝えるように、中国では大気汚染が深刻だ。2013年1月、北京でスモッグが発生しなかったのはたった5日だった。上空には4000トンにも上る汚染物質が浮遊しているともいう。

 こうした浮遊粒子状物質のうち、特に粒径が小さいPM2.5(直径2.5マイクロメートル以下の微粒子)は喘息や気管支炎を引き起こすとされる。北京ではマスクなしでは外出できないような状況だ。

 スモッグは北京上空のみで発生しているのではない。中国の960万平方キロメートルに及ぶ国土の7分の1を覆い、広域に及んでいる。上海も例外ではない。1月30日は重度の大気汚染が18時間も続いた。心臓病、動脈硬化、肺癌の発症を恐れる市民は自宅に閉じこもった。

 実際、北京では、2000年以降の十数年間で肺癌の患者数が60%も増えた。上海では2010年、PM2.5が原因で死亡した患者が3000人近くに上るとも言われている。

 「空気中の猛毒を直視せず、何年も放置した」。中国のネット上の書き込みでは環境問題に無力な役人を突き上げる声が渦巻いている。

「飢え死にするよりも喘息で死んだ方がマシ」

 中国では省エネや汚染削減が政策上のスローガンにもなっていた。経済発展一辺倒から一転して省エネ・環境問題への取り組みを掲げるようになったのは、「第11次5カ年計画」(2006~2010年)からである。「GDP当たりのエネルギー消費量を20%削減」「主要な汚染物排出総量を10%削減」などの目標を掲げ、政府や行政各部門はその達成義務を負うものとされていた。

 前者については19.1%の削減、後者については大気汚染物質(SO2)で14.29%減、水質汚染物質(化学的酸素要求量:COD)で12.45%減となり、国務院曰く「顕著な効果を上げた」ものとなった。