2012年6月のル・マン24時間レースは、アウディが「1923年初回開催以来初のハイブリッド車による勝利」を飾り、幕を閉じた。その後、この分野でのハイブリッド動力システムに関する規則や技術的内容、さらにその周辺の話題などについて取り上げ、「トヨタはル・マンで『ハイブリッド対決に敗れた』のか?」と題したコラムにまとめさせていただいた。ただ今年はル・マンの現地に足を運べず、現車も見ないままの考察だったので、隔靴掻痒の思いが残ったことは否めない。

富士スピードウェイで6時間にわたる接戦を繰り広げたトヨタTS030(優勝)と、アウディR18 e-tronクワトロ2台(この序盤の写真では後方の#1が2位、#2が3位)。(写真提供:Toyota Motorsport GmbH)

 先日(10月12~14日)、富士スピードウェイで「世界耐久選手権(WEC)・富士6時間レース」が開催され、ル・マン・プロトタイプ(LMP)車両において異なる方法論からハイブリッド動力化に挑戦したトヨタTS030とアウディR18 e-tronクワトロが、日本に初上陸(TS030にとっては「里帰り」か)。6時間の決勝レースの間、それこそ息つく間もないほどのシビアな戦いを繰り広げた。

 ここで現車とその走行を観察し、さらにトヨタのハイブリッド・レーシング首脳陣自身による技術説明を受けて、前回の推測が違っていたところ、「なるほど!」と膝を打つところ、いろいろあったので、もう一度ここで話題にさせていただくことにした。

トヨタとアウディの「蓄電システム」の違い

 ここでまず、ちょっと専門的になるが原理原則のお話。

 量産実用車に使われるハイブリッド動力システムは、軽負荷、部分負荷域の燃費改善に焦点を絞ったものとなっている。特にガソリンエンジンの場合は、この「軽負荷・部分負荷」領域で、燃料が持つエネルギーを回転力として取り出す効率(これが「熱効率」)が低下しがちだ。そこでもう少し負荷をかける。つまり同じ燃料消費でも、エンジンが出す力を増やし、クルマを押して走らせても余る分の出力は発電に回し、その電力を溜めておいて後で使う。こういうやり方で燃費を改善する効果がかなり大きい。しかしディーゼルエンジンは使っている力が少なくても熱効率が極端に悪化しないので、乗用車程度の重量とエンジンの大きさでは、ハイブリッド化のメリットは大きくない。

 これに対して、競技車両のためのハイブリッドは、いつも動力の全能力を使って加速し、そこで獲得した運動エネルギー(質量と速度の2乗の掛け算)を、その先の急激な減速の中で別のエネルギーに変換して回収(これを「回生」と言う)し、蓄えて、次の加速の時にそれでモーターを駆動する。この繰り返しが「速さ」を生み出す鍵となる。

 エンジンとモーターは力を生み出す「得意分野」が異なるので、それをうまく重ね合わせて使えば、コーナーでスピードが落ちたところ(「ボトムスピード」という表現もする)から加速して次のコーナーの入り口で減速するまでの間の加速が良くなり、その分だけタイムを縮めることができるわけだ。

 ここで問題になるのは、時速200キロメートルから100キロメートルまで1秒以下で減速してしまうような現代のレーシングマシンで、エネルギーを回収し蓄えるのにどうすればいいか、ということだ。