政府の国家戦略室は、9月14日にエネルギー・環境会議で「2030年代に原発稼働ゼロを可能にする」という方針を決定したが、19日の閣議ではこの決定は閣議決定されず、「参考資料」となった。
その直後に枝野幸男経産相は、地元の突き上げで青森県の大間原発の建設を認め、六ヶ所村の核燃料再処理施設や高速増殖炉「もんじゅ」も当面は存続するとしたため、「原発ゼロ」政策は実質的に撤回された。国の基本政策が発表されてから数日で撤回されるのは異例である。いったい何があったのだろうか。
日本は人類を全滅させる量のプルトニウムを保有している
この時期の目立った大きな動きとしては、18日に経団連と日本商工会議所と経済同友会が合同で記者会見を開いて「原発ゼロ」政策への反対を表明したことだ。
一般には「財界の反発に恐れをなした野田政権が閣議決定を見送った」と見られているが、このときもう1つの大きな動きがあった。
国家戦略室の決定に先だって訪米した前原誠司政務調査会長に対して、米エネルギー省のポネマン副長官は11日、「原発ゼロを目指すと決めた場合には負の影響を最小化してほしい」という懸念を伝えた、と前原氏が記者会見で明らかにしたのだ。
アメリカ政府が心配する最大の問題は、原発をゼロにして高速増殖炉をやめると、使用済み燃料を再処理してできるプルトニウムの用途がなくなることだ。
日本の保有しているプルトニウムは、原子力委員会によれば、国内に9.3トン、海外に35トンの合計44.3トンである(2011年末)。アメリカの核兵器に装着されているプルトニウムの合計が38トンというから、日本はそれを上回る量を保有しているわけだ。
プルトニウムは8キログラムあれば1発の原爆がつくれると言われるので、日本の保有しているプルトニウムは5000発分以上だ。原爆の製造技術は成熟しており、北朝鮮でもつくれるぐらいだから、日本がその気になればいつでも製造できる。つまり日本は、人類を全滅させる量の核兵器をつくることができるのだ。
行き詰まった核燃料サイクル
原爆を保有していない国がこのように大量のプルトニウムを保有することは、核拡散防止条約(NPT)では認められていないが、日本だけは日米原子力協定で特別に保有を許されている。これは高速増殖炉などの平和利用に限定するという条件つきで認められているものだ。最近では、大間のようにMOX燃料(プルトニウムをウランに混入した燃料)を使う原子炉も増えているが、これも余っているプルトニウムを消費するためだ。