MRIC by 医療ガバナンス学会 発行

 1930年代、「カロリー制限によってラットの寿命が約40%も延びた」という報告がありました。その後、昆虫やマウスなどでも、カロリー制限の寿命への効果が次々と報告されました。次は当然、カロリー制限が人間の寿命に影響するかどうか、という疑問が出てきますよね。

 そこで、人間に近い動物であるサルを使って、2つの施設が同じ頃に、カロリー制限の寿命や健康に対する影響を調査し始めました。

 ひとつは、1987年に開始された米国国立老化研究所(National Institute on Aging: NIA)の研究、もうひとつは、1989年に開始されたWisconsin National Primate Research Center(WNPRC)の研究です。

 WNPRCのグループの研究成果は、2009年に「Science」誌に報告されました。研究チームは、7~14歳の成人したアカゲザルに30%の食餌制限を行い、20年にわたり食餌制限のないグループと比較しました。

 20年間の観察の結果、食餌制限をしたサルは、がん、糖尿病、心臓病などの発症が少なく、見た目も若々しく、寿命が延びました。

 この研究によって、小動物だけではなく霊長類においても、「カロリー制限で寿命が延びること」が初めて証明されました。この報告以降、カロリー制限によって、老化が遅くなり、健康的に長生きができるという考えが広まりました。

 最近「Nature」誌に、NIAから、同じように20年間以上アカゲザルに30%の食餌制限を行った研究結果が報告されました。驚いたことに、「食餌制限のないグループのサルと、成人以降から食餌制限を始めたサルとでは、寿命が同じだった」という結果でした。

 食餌制限を始めたサルは、多少の健康状態の改善がありましたが、いずれにしても個体差が大きく、全年齢で総じて見れば、WNPRCの報告にあるような劇的な変化は認められなかったのです。

 この衝撃的な報告から、様々な反響が起こっています。

 「なんだ、ダイエットしても健康に影響はなく、寿命は変わらないんだ。それなら、安心して好きな物をたくさん食べよう!」と解釈される方もいるかもしれません・・・?