2011年5月6日、菅直人首相(当時)が突然、浜岡原発の運転停止を「要請」してから1年半近くたった。そのときは浜岡だけだった停止は、その後、全国の原発に広がり、今では再稼働した大飯3・4号機以外の52基が止まったままだ。

 これによってLNG(液化天然ガス)の輸入が増え、昨年は2.3兆円、今年は3.1兆円も燃料費が増えた。このままでは電力会社は債務超過に陥り、そのコストを転嫁すると電気料金は2割ぐらい上がるだろう。

なぜ全国の原発は止まっているのか

 首相が電力会社に「お願い」するという異例の形をとったのは、原発を止める法的根拠がなかったからだ。

 原子炉等規制法には「主務大臣は、原子炉設置者が次の各号のいずれかに該当するときは、原子炉の運転の停止を命ずることができる」という規定があるので、原子炉に欠陥が発見された場合は運転停止命令を出すことができる。

 しかし浜岡原発には、そういう欠陥はない。福島第一原発で問題を起こした予備電源も原子炉建屋の2階屋上に移設され、建屋にも防水工事が行われた。仮に予備電源がすべて地震で破壊されたとしても、予備の電源車が使える(構内にも電源車がある)。

 したがって菅氏の要請には法的拘束力はないので、中部電力がそれを受け入れるかどうかは、彼らの意思で決まる。中部電力の臨時取締役会では、この要請を受け入れると巨額の損失が出ることが問題になったが、経営陣は「防災工事が完了したら再稼働を認める」という確認書を海江田万里経産相(当時)と交わした。

 これは法的には、首相のお願いに応えて中部電力が自発的に運転をやめたという形で、経産省は「中部電力の経営判断だ」と責任を回避している。

 浜岡の停止を発案したのは、全国の原発を止めろという動きが強まる中で、経産省が東海地震のリスクの大きい浜岡だけを例外として止めることによって他の原発は動かす「ガス抜き」を図ったものと言われる。

 しかしこれは裏目に出て、全国の原発が定期点検に入ったまま、再稼働できなくなったのだ。これは浜岡のように明確な要請があったわけではない。いったい全国の原発はなぜ止まっているのだろうか?