今年もまだ夏の気配が濃い9月初旬(3~7日)、静岡県小笠山総合運動公園、愛称「エコパ」で10回目を数える「全日本学生フォーミュラ大会」が開催された。

 静的審査3種目、動的(走行)競技5種目それぞれに配分される得点の総計による総合優勝を獲得したのは、京都工芸繊維大学チーム。京都にある国立3大学のうち、ほんの数キロメートル南に主キャンパスを置く京都大学ほどの全国的知名度はないのだけれども、京都蚕業講習所として開設して以来110年を超える歴史を持ち、工芸や繊維、さらには生体工学や高分子工学までをカバーする工科系大学である。

 私自身、学生フォーミュラチーム同士の交歓会の機会に今年初めてそのキャンパスを訪れたのだが、古びた煉瓦造りの建屋が残る一方、最新のカーボンファイバー複合材を立体成形する機械を学生自身が操ってものづくりをするというユニークな実学系教育の現場などを目にして、こんなところにこんな教育の場があったのか、といささか驚いた。

 そんな特徴ある大学のサークル活動たる学生フォーミュラのチームが、錚々たるライバルを抑えて優勝を遂げた。その裏側にはとても興味深い、日本の学生フォーミュラの時代を変えるかもしれない事情があったのだが、それについては後述しよう。

アメリカで始まった「人を育てる」ためのコンペティション

 思い返せば、この「技術立国・日本論」のコラムが始まったのがちょうど3年前、まさにこの「全日本学生フォーミュラ大会」の時期であり、その年から毎回、話題にしてきている。だから続けて読んでいただいている読者の方々はもう理解されていると思うけれども、何にしても見る側にとっては年に1回のことなので、「学生フォーミュラ」の概要をざっと紹介しておくことにしたい。

 もともとは1980年代の初頭、アメリカの自動車産業の技術的地盤沈下が表面化しつつあった時期、それに対してまず「人を育てる」ことだと考えたアメリカ自動車技術会(SAE:Society of Automotive Engineers。航空機まで含めた技術領域で実務研究だけでなく規格策定などまで、日本の自動車技術会よりもはるかに広い領域で世界的に影響力を持つ活動を展開している)の人々によって発案された「コンペティション」である。

 自動車技術とモータースポーツの両方に詳しい専門家たちが集まって基本プログラムとルールをまとめ、教育の場にある若者たちが自らの頭脳と手でクルマを生み出し、走らせる。それが「フォーミュラSAE」であり、今日ではアメリカ本国だけでなく世界各国で同じルールに基づく活動と競技が行われている。

 それが日本では「学生フォーミュラ」であり、欧州やオセアニア他では「Formula Student」と呼ばれているわけだ。

「学生フォーミュラ」はこんな形の小さな単座競技車両を、学生たち自身が企画、設計、製作、開発を行うプログラム。ものづくりの起承転結を1年間に凝縮して体験するわけだ。今年の全日本大会は次年度の本開催に向けてEV(電気自動車)のプレ大会も併催。手前の「E1」はそこで最速だった静岡理工科大学チームのマシン。残念ながら思わぬトラブルでエンデュランス完走ならず。ドイツ大会では内燃機関か電気駆動かを分けずに実施する段階(採点は別)に進んでいる。以下、(*)を除き筆者撮影