地方のフラワーパークを訪れたときのことである。幹部職員が「うちも中国人観光客向けのインバウンドビジネスに力を入れていきたい」と真剣な顔で語った。
筆者は正直、「大丈夫だろうか?」と心配になった。そもそも地方の小規模なフラワーパークに、海外の観光客を呼び寄せるほどの魅力があるのだろうか。中国人観光客に「行ってみたい」と思わせる何かがあるのだろうか。
誘客にはコストもかかる。最近は「時流に取り残されるのではないか」と不安を抱く事業者も散見されるが、どこもかしこも中国人観光客を呼び寄せようとする風潮には、危険な落とし穴がひそんでいないだろうか。
家電量販店を回るだけの団体観光客
全国の地方自治体では、購買力旺盛な中国人の団体観光客を呼び込もうと様々な施策が展開されている。自治体の観光部署なら、今やどこでも「金持ち中国人観光客」をターゲットにした企画立案に余念がないと言っても過言ではない。
「しかし・・・」と、ある自治体の職員Aさんは言う。
「中国人観光客はもちろんウェルカムだ。だが、“団体さんを大量に呼び込む”ことにどんな意味があるのか、もう一度よく考え直した方がいい」
観光立国を目指す日本政府は、2020年はじめまでに訪日外国人数を2500万人まで増やすという目標を掲げている。その目標の達成にも、中国からの団体旅行客はなくてはならない存在だ。
だが、中国人観光客を受け入れる現場では、過度な数字至上主義を懸念する声も上がっている。
例えば福岡県の博多港には、千人単位の中国人観光客がクルーズ船に乗って日帰り旅行にやって来る。だが、3000人を超える大型船ともなると、入国審査を済ませて上陸するだけで何時間もかかってしまう。朝8時に船が到着し、夕方には出発ともなれば、ごく限られた買い物時間しかない。それは地元経済にどれだけの効果をもたらすのだろうか。
また、福岡県在住の旅行業関係者は次のように語る。「団体観光客の上陸後の行動は、最初から旅行会社のオプショナルツアーで囲い込まれている。港で下船しても、地元で食事をしたり観光するわけではない。結局は家電量販店を回るだけ。地元の個人商店がメリットを享受することは難しい」