5月31日に前回記事「福島第一原発事故を予見していた電力会社技術者」(2006年の段階で「原発の全電源喪失=格納容器破損=住民避難」を予見していた松野元さんのインタビューと、その著書『原子力防災』についての報告)を本欄に掲載したあと、すさまじい反響があった。

 記事のページビューは約40万に達した。単純計算で7万人近くが見たことになる。ちょっとした月刊誌が「完売」するぐらいの量である。発行から5年、ずっと光が当たらないまま眠っていた『原子力防災』はあっという間にアマゾンの「サイエンス・科学」部門ベストセラー1位になった。売り切れになったらしく、重版が決定した。

 「原子力発電所事故の発生以来、初めて胸がすっきりする説明を読んだ」。そんな読者の声がたくさん寄せられた。

 今回は、続編を掲載する予定だった。

 ところが偶然、6月8~9日に国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調査委員会)の第19回委員会が開かれた。清水正孝・東京電力前社長が出席した、あの回である。9日には黒川清委員長らが国会参議院会館で会見して「論点整理」をした。その「論点5」が「ERSS(緊急時対策支援システム)/SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)」に触れていた。

 ところが、記者会見や報道記事を見ると、国会事故調はまだ、ピント外れな論点設定のまま修正ができていないことが分かる。予定を変更して、そちらについて考察してみよう。

SPEEDIが作動しなくても避難誘導はできた

 国会事故調査委員会の「論点5」は、雑駁(ざっぱく)にいうとこんな内容だ。

 「ERSS/SPEEDIは作動していたのか、いなかったのか」

→「作動していなかった」

→「3.11のような危機(停電、回線の故障、原子炉の圧力・温度の暴走など)で作動しないシステムは問題がある」

→「ERSS/SPEEDIは初期の住民避難には役立たない」

→「モニタリングの方法や数を増やし、多様化すべきだ」