農家レストラン、農作物直売所、体験農園・・・。1次産業に携わる農業者が、2次産業の加工や3次産業の流通にも関わる「6次産業」化が大きな流れになっている。目的は、農家の経営を多角化し収益率を高めることにある。
6次産業化は、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に屈しない日本の強い農業をつくるためにも必須だと言われている。いいことずくめのように見える6次産業化に課題はないのか。成功させる秘訣とは何か。事例を挙げながら考えてみたい。
規格外品の加工で付加価値が5倍に
6次産業化の成功例と言える農業者が北海道にいる。ラベンダーで有名な北海道上富良野町。十勝岳連峰を望む広大な農地では畑作が盛んだ。その上富良野に「にんじん工房 多田農園」がある。
農主の多田繁夫氏は、2000年に「にんじん工房」を開設して、ニンジンジュースの製造・販売を始めた。きっかけは、ニンジンの規格外品の有効活用だ。
市場を通せば、形や大きさが細かく等級分けされる。どの等級にも当てはまらなかった野菜は「規格外」としてはねられる。安く引き取られることもあり、農家は最初から規格外品は出荷しないこともある。
多田氏は、ニンジンに思い入れがある。富良野で100年。3代にわたって農業を営んできた。自身の闘病を機に「体にやさしい農産物を提供したい」との思いから、減農薬・減化学肥料のニンジン生産に転換した。
「栄養価の高いニンジンを二束三文で売りたくない」。そう思うのは自然なことだった。
糖度と栄養価の高いニンジンジュースのファンは全国にいる。主にインターネットで注文が入るが、筆者が訪問した日は、車で夫婦客がジュースを買い求めにくる姿があった。聞けば、健康のためにニンジンジュースを愛飲しているという。
120ミリリットルの「にんじんジュース」が12パック入りで2600円。同量のジュースに必要なニンジンの量は4キロで約550円。価格は5倍近い。
パックには新鮮な状態をそのまま封じ込めている。開封すると、ふわりとニンジンの香りが広がる。一口飲むと、その自然な甘みに驚く。
「規格外のニンジンを何とかしたいと思ったが、加工技術、衛生管理技術がなく、何をどのように作ったらいいのか、商品作りのノウハウもなかった」。多田氏は語る。そこで、多田氏は地域の関係機関に助けを求めることにした。