北朝鮮のミサイル発射は壮大なコメディのようだった。

 「地球観測衛星打ち上げ」の名の下に、北朝鮮がいよいよ米国領土にまで届く長距離弾道ミサイルの開発の成功を全世界に向けて誇示する。その結果、米朝関係も朝鮮半島の軍事バランスも、日本の安全保障も、みな大きく揺らぎ、新たな重大脅威に直面する。限りなく若く、肥った北朝鮮最高権力者は内外への威信を確立する。東アジア全体の情勢がこのカルト的独裁国家に有利に動く――そんなシナリオの実現が真剣に懸念されたわけだ。

 だが現実にはミサイル打ち上げは無残な失敗に終わった。発射されたミサイルはわずか2分後に空中で自爆して、ばらばらとなった。珍しく各国のメディアを招いての大実験の誇示も、空想に終わった。今となれば、全世界の事前の緊迫が笑いごととして映る。

 しかし、この大失態で誰がどんな影響を受けるのか。失敗、あるいは発射自体によって傷つくのは誰なのか。

 日本側の識者らの観測では、デビューしたばかりの金正恩第一書記の体面がこれで大きく傷ついたという。常識で考えれば、確かにそうだろう。

 だが北朝鮮というのは特異を極める独裁国家である。金王朝の権威は絶対不可侵とされる。もちろん国民の世論など政治要因としては存在しない。だからその権力者がどんなことをしても権威は揺らがないとも言える。

 若き金書記がこのミサイル発射失敗で国際的に嘲笑されても、そうした反応は北朝鮮内部には浸透しないメカニズムが出来上がっているのだ。

 その一方、わが日本の対応には重大な欠陥がいくつもあったことが証された。日本政府がミサイル発射をなかなか確認できなかったことがその最大だった。防衛や軍事に自縄自縛のカセをしてきた戦後の日本が、自国の安全へのこの種の危機への対応にいかに弱いかが、いやというほど実証されたと言える。その点ではわが日本国も傷ついたことになる。

一斉に沸き起こったオバマ大統領への非難の声

 では、米国はどうか。

 実は米国では、今回の北朝鮮のミサイル発射とその失敗がオバマ政権を傷つけそうな状況が生まれている。この点での指摘は日本の大手メディアでは意外と少ない。