今年3月末、米国のディック・チェイニー前副大統領が心臓移植手術を受けた。20カ月順番待ちをした末の手術は成功し既に退院しているというが、臓器提供者が不足している現状では、若年者に配慮すべきとの意見も少なくなく、71歳という年齢で受けた移植手術が議論の的となっている。

大統領より怖い副大統領

「大統領暗殺」

 そんな心臓の状態もあってか、このところ表舞台に姿を現さなくなっていたチェイニー前副大統領だが、ジョージ・W・ブッシュ政権時、「史上最強の副大統領」と呼ばれていた陰の実力者ぶり、タカ派ぶりは周知の通りである。

 憎きブッシュ大統領を暗殺したところで、チェイニー副大統領が昇格してしまうから、そっちの方がずっと怖いよ、という『大統領暗殺』(2006)のような映画が作られるほど存在感があったのである。

 副大統領最大の役割にして役得は、大統領が死亡したり職務遂行不可能となった際、選挙なしに即刻後任となること。

 『野望の系列』(1961)には、副大統領の上院で決選投票となった際の投票権がキーとなり、突如主役に躍り出る副大統領の姿があるが、しょせんはスペア。大統領が健在であれば影のような存在でしかない。

 近年、大統領の仕事そのものが多くなったこともありその役割も増しているとはいえ、現職のジョー・バイデン副大統領にしたところで、昨年東日本大震災被災地を訪れた時も話題にもならなかったほど存在感は薄かった。

有名な副大統領、アーロン・バー

 これまで14人が大統領の死や辞任、そして自力で大統領の地位を得ているが、副大統領止まりだった残りの人々のことなど覚えているだろうか?

 そんな中にあって、忘れられない存在が、トマス・ジェファーソン第3代大統領時代の副大統領アーロン・バーだろう。

 しかし、それは業績によってではない。人殺しとして記憶されているのである。世界中で戦争をやってきた米国のことだから、そんな人いくらでもいるでしょ、と言われそうだが、ここで言っているのは殺人事件のこと。

 とは言ってもそれは決闘で起きたこと。無茶な戦争などよりよっぽどましのようにも思えるが、すでに「文明的」環境となっていた東部の多くで決闘は違法。殺人罪で起訴されたのである。