先週に引き続き、今週もまたフランスの地方のアートの話題。
5月12日、「ポンピドゥーセンター・メッス」がオープンした。これはパリの国立現代美術館「ポンピドゥーセンター」の分身とも言える大きなプロジェクトで、「文化の地方分散化の初の試み」といった呼び声も高く、大統領臨席のもとに華々しく幕を開けた。
文化の地方分散化を促す画期的プロジェクト
前日の記者発表に詰めかけたジャーナリストの数は、恐らく500人は下らない。
(c)Shigeru Ban Architects Europe et Jean de Gastines Architectes/Metz Mètropole/Centre Pompidou-Metz/Photo Harue Suzuki
それもフランスのメディアばかりではなく、国外からのジャーナリストも多く、館内の至る所でテレビクルーによる収録があったり、また屋外に設けられた特設会場ではケーブルテレビの特別番組の生放送が行われていたりと、まさにお祭りさわぎである。
開館記念の特別展「chef-d’oeuvre?(傑作?)」も、満漢全席と言いたくなるような企画で、5000平方メートルという広大な展示スペース全部を使い、中世から現代、もちろん中心となるのは現代アートだが、巨匠たちのアート作品800点が展示されている。
ピカソ、マチス、ミロ、ダリ、カンディンスキーなどの絵画はもとより、作品は、彫刻、写真、映像、豪華本の分野にまで及ぶというもので、贅沢なことこのうえない。その規模とレベルから言えば、今年の国内の展覧会の中でも恐らく5本の指に入る大展覧会と言えるだろう。
ところで、この中身にもまして話題になっているのが、美術館の建物そのもの。
候補作品157の中から選ばれた坂茂氏
日本人建築家、坂茂(ばん・しげる)氏が手がけたクリエーションである。これほどのビッグプロジェクトであるからには、当然、国際的なコンペティションが行われたが、候補作品157の中で坂氏がこれを勝ち取った。2003年12月のことである。その時のことを坂氏は次のように語る。
「たぶん、人生の中でこんなに嬉しいことはなかったくらいに嬉しかったです。と言うのはやはり、ただのコンペじゃなくて、ポンピドゥーセンターなのでね。自分が非常に尊敬する建築家が造った建物の次ですから」
「また、ただの有名な美術館ではなくて、元々イノベーティブな建物ということを狙っているものだったので、そういう意味で選ばれたということは、僕にとって適切な建物のコンペに勝ったな、と思いました」
パリのポンピドゥーセンターといえば、レンゾ・ピアノとリチャード・ロジャーズによる建築。
古都のまん真ん中にガラスとむき出しのチューブを使った異様なオブジェが出現したということで、大変な物議をかもしたほど革新的なものだったが、33年の歳月が経った今となっては、歴史的なモニュメントとして、現代のパリを代表する風景になっている。