ロシアのメディアは、3月に迫った大統領選挙や、プーチンの復帰に反対する数万人のデモのことはあまりニュースにしていない。しかし、1月末のラブロフ外相の訪日と、東京で行われた北方領土返還要求全国大会のことはきちんと報じていた。
例えば、「ロシア24」というテレビ局は、右翼の街宣車が東京・麻布のロシア大使館を取り巻いている場面や北方領土返還要求大会の様子をかなり詳しく報じていた。
だが、「日本のロシアへの反感はそれほど激しくはない。東日本大震災の悲劇を受けて、日ロ関係は落ち着きを取り戻している」というのがロシアのメディアの論調である。日ロ関係についてやや楽観的に見通しているようだ。
その背景の1つに、プーチン首相の対日政策がある。
3月4日の大統領選挙でプーチンが返り咲きしても、ロシアは安定しないだろう。政治と外交には波乱が待ち受けている。だが日ロ関係にとっては、大きなチャンスとなるかもしれない。
実はロシア首脳の中で、日本との関係改善に最も積極的に取り組んできたのはプーチンだ。プーチンが大統領に復帰したら、改めて日ロ関係の構築に取り組むのではないかと期待される。
領土問題解決の新たなスタート地点とは
来日したラブロフ外相の発言をもとに、領土問題を解決するための出発点と今後の課題を整理してみたい。
(1)「法と正義の原則」に基づいた対話を
「今までに両国首脳が合意した既存の外交文書と、法と正義の原則に基づいて対話していくことを望む」とロシア外相は語った。
「法と正義の原則」はエリツィン時代に両国が合意した言葉であり、プーチンやメドベージェフはあまり口にしなかった言葉だ。
東日本大震災後、ロシアの一般市民は日本に対して同情と思いやりの目を向け、両国民の関係は良い方向へ向かっていた。その中で日本の外務省は、新しい雰囲気の中で「法と正義」の原則に基づいて領土問題を解決しようと呼びかけていた。
しかし、それに対してロシア側は難色を示していた。日本が言う「正義」は、4島返還の意味ではないかという懸念があったからだ。