世の中には多くの人が常識だと思っていることが実は違っていたということは意外に多い。身近な例では、中流以下の米国を例に取って「日本では女性の社会進出が極めて遅れている」という“常識”。
アジア諸国に比べても遅れていることは確かだが、世界一の高学歴国であり格差が最も少ない国だった日本にそのような“常識”を当てはめようとすることが果たしてふさわしかったのか。
もちろん多様性は重要なので社会進出した女性を援護することは大切だ。しかし、深刻な少子高齢化と格差拡大を目の当たりにして、「常識だから」と言われると、国を導く方向性が間違っていなかったか気になるところだ。
「中国人はすぐ転職する」のウソ
似たような例として、「中国人はすぐ転職する」という“常識”も中国に進出している企業の中では定着しつつあるようだ。
しかし、「そういう考えでは中国ビジネスは成功しない」ときっぱり言う専門家がいる。静岡県三島市に本社を置き、日本一の施工量を誇る住宅屋根工事などの総合外装事業を中心とする南富士の杉山定久社長だ。
南富士はいわゆる大企業ではないが、中国進出では30年以上の歴史を持つ老舗企業の1つ。しかし、中国で自前の工場を持って製品を作るという形ではなく、中国で人材育成のビジネスを展開してきた。
その経験をもとに今から7年前の2005年にはグローバル・マネジメント・カレッジ(Global Management College)と呼ぶリーダー育成のための私塾を中国で展開している。
清華大学や北京大学など中国の名だたる有名大学を卒業した極めて優秀な人材だけを集めてアジアで活躍する企業のリーダーを育成しようというプログラムである。その詳細はあとで詳しく述べるが、育成費用はすべて南富士が持つ。
応募してくる学生は毎回1万人にも及ぶ。しかし入塾できるのは、わずか10人ほど。「紛れもない中国人の学生のトップ中のトップの連中です」と杉山社長。
そうした優秀な人材に人を動かすための独特のマネジメント教育を施して、トップマネジメント候補として中国に進出している世界の有名企業に送り出している。日系企業からも引く手あまただという。
人材ピラミッドの頂点にいるような彼らは、「決して手を抜かないし、少し給料が高いからと簡単に転職を考えるような人たちではない。ロイヤルティーは極めて高い」と杉山社長は言う。「すぐ転職をしたがるのは工場やサービス産業で働く労働者ですよ」
中国ではいま、賃金の高騰やそれからくるストライキ、そして少しでも高い給料を求める工員の転職などが進出企業を苦しめているが、実は、そうした企業にGMCの卒業生が入ると、速やかに問題を解決してしまうという。
リーダーという目線をあまり持たない日本人にとっては、ストライキや転職を繰り返す中国人を“常識”ととらえてしまうが、グローバル企業経営の目線ではそうした人材は常識ではないというわけだ。
「グローバルリーダーという意味では、彼らは若いけれども、日本の大企業のトップよりはるかに力があるかもしれません」と杉山社長は言う。
南富士という会社に出合って、改めて世間で言う常識というものを鵜呑みにしてはいけないと考えさせられた。