2012年は龍の年であり、中国では、縁起のいい年と言われている。

 10月には共産党第18回大会が開かれる予定であり、そこでポスト胡錦濤の新政権の人事が決まる運びになっている。

 人事の基本は適材適所だが、民主主義の選挙が実施されていない中国では、国家指導者の人事はブラックボックスの中のパワーゲームによって決められている。それに影響を与えるのは、これから引退する胡錦濤国家主席のほか、すでに引退した江沢民を中心とする長老政治家である。

 中国国内外のウォッチャーの間で、ポスト胡錦濤の国家主席・党総書記・軍事委員会主席に習近平国家副主席が「選出」されるのは確実視されている。しかし、胎動する習近平体制の全容はまだ明らかになっていない。

国民が習近平体制に寄せる3つの期待

 胡錦濤政権の最大の功績は、これまでの9年間、高い経済成長率が維持されたことである。問題は成長の維持を重視するあまり、市場経済の制度改革や経済構造の転換といった努力が不十分だったことだ。何よりも、国民が期待している政治改革がまったく着手されておらず、共産党幹部の腐敗は日増しに深刻化し、国民の間で不満が急速に高まっている。

 では、中国の国民は習近平体制にどのような期待を寄せるのだろうか。

 まずは公正な社会づくりであろう。これまでの30年間、中国経済は確かに高成長を成し遂げたが、その一方で、共産党幹部の特権が増幅し、社会の不公平性が深刻な社会不安をもたらしている。

 近年、都市再開発が進められる中で、住民を強引に立ち退かせたり十分な補償を支払わなかったりするケースが急増している。窮地に追い込まれた住民が焼身自殺を図るなどの事件も増えている。公正な社会づくりがなければ、社会の安定が担保されない。

 次に国民が期待するのは、所得のボトムアップによる格差の縮小である。

 そもそも鄧小平が進めた「改革開放」政策は国民に働くインセンティヴを付与し、他人に先駆けて豊かになることを奨励する「先富論」だった。その「先富論」は経済成長、すなわち、パイの拡大につながったが、出来上がったパイを公平・公正に分配する制度的メカニズムが用意されていない。