ちょっと宣伝めいて恐縮だが、今年から私の経営するアゴラ研究所ではGEPR(グローバル・エネルギー・ポリシー・リサーチ)というウェブサイトでエネルギー問題についての世界の研究を紹介することになった。
その第1号の論文でオックスフォード大学のウェイド・アリソン名誉教授は次のように書いている。
福島の原子力事故から8カ月の間、原子力問題に関する報道が数多く出ている。しかし放射線による死者は出ていない。これは大変興味深いことだ。通常は、これほどメディアの注目を集め続けるような大事故であれば、何十、何百どころか何千人もの死者が出ているものだ。[中略] 私たちは何か間違いを犯したのだろうか。
科学より主婦の実感を信じる朝日新聞
たぶん誰かが勘違いしているのだろう。放射能による死者は1人も出ていないのに、その報道は2万人近い死者・行方不明を出した東日本大震災に劣らず大きい。
特に過激な報道を続けているのは、朝日新聞である。10月から続いている「プロメテウスの罠」という連載は、毎日こんな記事が続く。
東京都町田市の主婦、有馬理恵(39)のケース。6歳になる男の子が原発事故後、様子がおかしい。4カ月の間に鼻血が10回以上出た。30分近くも止まらず、シーツが真っ赤になった。近くの医師は「ただの鼻血です」と薬をくれた。 [中略]
しかし、子どもにこんなことが起きるのは初めてのことだ。気持ちはすっきりしなかった。心配になって7月、知人から聞いてさいたま市の医師の肥田舜太郎(94)に電話した。肥田とは、JR北浦和駅近くの喫茶店で会った。
「お母さん、落ち着いて」
席に着くと、まずそういわれた。肥田は、広島原爆でも同じような症状が起きていたことを話した。放射能の影響あったのなら、これからは放射能の対策をとればいい。有馬はそう考え、やっと落ち着いた。
原発から約250キロ離れた町田市で子供が鼻血を出した原因が放射能であることは、現代の科学では考えられない。事実この記事も、後の方で申し訳のように「こうした症状が原発事故と関係があるかどうかは不明だ」と書いているが、全体としては「本当は関係があるのだが証明できない」と匂わせる印象操作だ。