タイ・ミャンマー・ラオス・中国・インド国境地帯に「シャン族」という少数民族が住んでいる。人種的にはタイ系と言われ、人口は約200万人。居住地により5つの主要集団に分かれるが、通常はビルマ・シャン、中国シャン、カムティ・シャン(インド)の3つに大別されるのだそうだ。
例えは変だが、ある意味では東南アジアの「クルド人」と考えればいいのかもしれない。
国境のミャンマー側では1990年代まで「シャン族独立運動」が活発だったらしい。そのリーダーは「クン・サ」と呼ばれた男で、「張奇夫」なる中国名まで持っていたそうだ。
張奇夫は1934年生まれ、2007年にヤンゴンでその数奇な人生を終えたという。今回のテーマはこの謎多き「張奇夫」なる麻薬王である。(敬称略)
黄金の三角地帯
前々回お伝えした通り、筆者がミャンマーに関心を持ったきっかけは、ある中国の友人の一言だった。念のため、彼の発言を再録させていただく。
「中国はミャンマー情勢を内心強く懸念している。あまり知られていないが、ミャンマー北部には中国系ミャンマー人が住んでいる」
「彼らは独立心が強く、様々な問題を起こしている。今後ミャンマーで政治改革が進めば、ミャンマー国内はもちろんのこと、中国にも悪影響が及ぶことをとても心配している」
恥ずかしながら、この話を聞いた時、筆者はミャンマー北東部に今も中国国民党員の末裔が住みついていることなど知らなかった。
詳しく調べてみると、中国内戦の最中に国民党残党が雲南省からタイ、ミャンマーに逃れ、その地でアヘンを栽培して捲土重来のため資金を集めていたらしいことが分かってきた。
確かに、インターネットで「ミャンマー、国民党残党」を検索すると、最初に出てくるのは「黄金の三角地帯」に関する情報だ。なるほど、そういうことだったのか。
さらに調べてみると、この麻薬密造地帯については日本の多くの若い「冒険家」たちが既に多くの興味深い訪問記や体験記をネット上に掲載していることが分かった。まさに「灯台下暗し」である。