12月19日正午、朝鮮中央放送が金正日総書記の死を報じた。その2時間前には北朝鮮で「特別放送」があるとの情報が既に流れていた。しかも、「特別放送」とは「重大放送」よりも重大であり、これまでは金日成死去の際しか使われなかったことまで分かっていた。

雪の中、「将軍様」の死を嘆く国民 北朝鮮

平壌市内で金総書記に哀悼の意を表する市民(2011年12月21日、朝鮮中央テレビの映像より)〔AFPBB News

 それでも日本のマスコミは虚を衝かれたようだ。筆者のような門外漢にまで電話がかかってきたぐらいだから、朝鮮半島専門家たちはさぞ忙しかったに違いない。

 一方、これまでの報道内容は北朝鮮側発表の真偽や権力闘争勃発の可能性などが中心で、中国の思惑に関する分析は必ずしも十分ではない。

 そこで今回は予定を変更し、「中国の視点で見た金正日死去」についてとりあえずの考えを纏めてみることにした。これに伴い、前回お約束した「ミャンマーの国民党残党」の話は次回書くということで何卒ご了承賜りたい。(文中敬称略)

千載一遇の機会

 中国政府にとっては願ってもないチャンスが訪れた。

 亡くなった金正日は扱いの難しい「古狸」だったが、若い金正恩なら何とか言うことを聞くかもしれない。親子3代の権力世襲などおよそ社会主義的ではないが、金正恩とその取り巻きが中国式の「経済改革」に踏み切るなら、そこは黙って目を瞑ろう。

 とにかく、このまま北朝鮮が「暴発」すれば戦争となり、「崩壊」すれば韓国主導の半島統一ともなりかねない。米軍が駐留し、潜在的に反中で、核兵器製造能力まである自由民主主義の統一朝鮮国家と国境を接することだけは何としても避けたい。

 恐らく中国指導部はこう考えたに違いない。

 だからこそ中国は、北朝鮮が簡単に自壊することのないよう、北朝鮮に対し改革開放政策への転換を長年働きかけ、経済的自立を促してきた。北朝鮮が国内経済システム改革に成功すれば、結果的に朝鮮半島の分断が続き、当分は韓国との間に「緩衝国」を維持できるという算段なのだろう。

 確かに過去2年間、金正日は4回も訪中し各地の経済特区や工業地帯などを視察している。直近の数カ月間だけでも、中朝首相級要人、軍高級幹部などの相互訪問が続いていた。