2010年4月1日、生命保険業界第2位の第一生命保険が相互会社から株式会社へ転換し、東証1部に上場した。保険契約者に株式を割り当てた結果、個人株主数は100万人を大幅に上回り、NTTを抜いて国内最多となる見通し。1日の初値(16万円)で計算すると、時価総額は1兆6000億円。日本では久々の大型IPO(新規株式公開)だけに、株式相場の牽引役として大きな期待が寄せられる。

 相互会社は、「社員」である保険契約者に剰余金のほとんどを分配する保険業界特有の形態。しかしM&Aなど経営戦略の自由度が低く、海外事業の展開などでは不利が指摘される。既に欧米では大半の保険大手が相互会社から株式会社に生まれ変わり、国境を超える合従連衡で巨大化している。

 一方、日本の大手生保は国際金融市場で巨額のマネーを動かし、かつては「ザ・セイホ」として欧米に恐れられた。しかし株式会社化の国際的な波に乗り遅れ、相互会社形態に固執してきた。今回、業界2位で日本最古の相互会社である第一生命の決断により、国内再編の観測も急浮上している。JBpressは同社の渡辺光一郎社長に単独インタビューを行い、「新創業」の背景や国内外のM&A戦略などを聞いた。(取材は2010年3月26日、前田せいめい撮影)

JBpress 第一生命は日本で最も古い相互会社だが、なぜその歴史と伝統を捨てて株式会社化を決断したのか。

渡辺光一郎氏/前田せいめい撮影渡辺 光一郎氏(わたなべ・こういちろう)
静岡県出身 1976年東北大経卒、第一生命保険入社 調査部長、常務、生命保険協会一般委員長などを経て2008年専務 10年4月社長 空手3段、剣道2段 座右の銘は「変化は摩擦を生み、摩擦は進歩を生む」

 渡辺光一郎社長 「不易流行」という言葉がある。永続的に経営している企業の共通点は、変わらないものと変わるものを明確に打ちだしていること。すなわち、環境変化に対応していくということだ。経営者の意図にかかわらず、必ず予期しないものが潮目の変化として急に現れる。当社は2010年で創業108年。煩悩(の数)を超えて「新創業」を迎えた。

 当然、当社にとって変わらないものは、(創業時からの)経営理念の「契約者第一主義」になる。今回は「人を大切にする会社」というビジョンを創り、変わるものと変わらないものをコンパクトにまとめた。そのバックボーンには、「いちばん品質を大切にする会社」「いちばん生産性の高い会社」「いちばん従業員の活力ある会社「いちばん発展する可能性のある会社」がある。

 今回の株式会社化は、決定してから足掛け3年になる。変化が目の前に出てから(行動するの)では遅い。従ってできるだけ早く対応した方がよいと判断した。経営理念を将来にわたり履行するには、持続的な成長企業でなければならない。変化に対応できるだけの経営の柔軟性を確保した上で、変わらないものを守るために当社は変わっていく。

 一大イベントだけに従業員や顧客、取引先など関係者の間では、株式会社化・東証上場で「ゴール感」のようなものが出てきてしまう。しかし、それ自体が目的ではない。新創業であり、創業者の精神いわば原点に戻る。持続的成長に向け、価値創造の戦略を描いていく。

2012年度までに持ち株会社へ移行、営業4万人態勢を堅持

 ━━ 株式会社化後、経営戦略のビジョンをどう描くのか。

 渡辺氏 生命保険の商品は(契約期間の)足が長いから、中長期の戦略と永続的な成長が重要。株式会社化後の新創業3年目、創業110周年に当たる2012年度を最初のマイルストーンにする。

 向こう3年間を持ち株会社形態(への移行)のほか、IFRS(国際会計基準)や各種規制に対応するための基盤整備に充てたい。国内の競争力、すなわち中核事業である国内の営業職員(約4万人)チャネルの強化が非常に大事。「人財」の育成こそが競争力の原点になり、教育カリキュラムの再整備を進めている。