3月13日の夜、グルジアの「イメディ」という政府系テレビ局が、ある番組を放送した。5月30日に行われる首都トビリシの市長選挙で、もしも「親ロ」の野党候補が勝ったら政局はどういう展開になるかを予想し、視聴者に最悪のシナリオを紹介するという番組だった。

 シナリオによれば、選挙後、治安が乱れ、群衆と警察が衝突。4人が射殺される。同時に、グルジアから離脱した南オセチアで政府首脳の車が狙撃される。

 それを受けてロシアのメドベージェフ大統領が緊急安全会議を開く。メドベージェフ大統領は「我々の兄弟、グルジア国民を救援しよう」と声明を出し、ロシア軍がグルジアに侵攻する。グルジアでは親ロの野党勢力だけではなく、軍の一部もロシア側に寝返る。

 番組を途中から見た一般市民は、架空の話だとは思わずにびっくりしてしまい、知り合いに「ロシア軍が攻めてくる」と電話をかけた。その結果、グルジア中がパニック状態に陥った。

番組を仕掛けたのはグルジア大統領?

 この番組の背景には、現在のグルジアの社会が深く分裂しているということがある。

 グルジアは2008年のロシアとの戦争で南オセチアとアブハジアを失った。2つの地域がいつ返ってくるのか、まったく見通しは立たない。現政権が期待をかけていた米国と欧州は、クレムリンを批判しながらも、基本的にはロシアとは喧嘩したくないという立場である。

 南オセチアとアブハジアはグルジアの国土の5分の1を占めていた。領土を失い、ロシアと断絶したグルジア経済は、現在、窮地に陥っている。時間が経てば経つほど、状況は深刻になっていくだろう。ロシアとの関係を正常化し、対話すること以外に、2つの地方を取り戻す方法はない。

 2004年の政権樹立時にサーカシビリ大統領を支持していた勢力は、オセチア侵攻の失敗を追及し、彼を厳しく批判するようになってきた。

 野党勢力の中で国民に最も人気のあるブルジャナゼ元国会議長は3月4日にモスクワを訪れ、プーチン首相に面会した。ブルジャナゼはプーチンとの会談後、「ロシアとグルジアの関係について様々な面から議論できた。非常に有意義だった」と、満足気に語った。

 ブルジャナゼは、サーカシビリ大統領が政権の地位低下を恐れ、野党を陥れるために、今回の番組を仕掛けたと非難している。