3月5~14日、中国で年に1度の中国全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が開催された。

 本来ならば、全人代は政府国務院の活動報告を審議する場である。しかし、共産党一党独裁の政治体制の下で全人代の審議機能は弱く、政府活動計画を貫徹するための「宣誓会」になっている。

 事実、代表らの言動を見ると、政府活動の素晴らしさを称賛するものばかりだ。問題点を指摘する者はほとんどいない。今年の全人代も例外ではない。

 今年の全人代で、温家宝首相は例年通り政府活動報告を読み上げ、1週間の審議機関を経てほぼ満場一致で採択された。

 しかし、過去1年間の政府活動についてまったく注文をつけるところがないのだろうか。政府幹部の腐敗が年々横行し、監督体制のあり方が問われている。温家宝首相は自らの政府活動報告の中で「民主主義は腐敗を根絶する唯一の方法だ」と断言している。中国の政治は民主主義に向けて少しでも進展しているのだろうか。

一層の資産バブルを呼びそうな積極的財政政策と金融緩和

 温家宝首相が読み上げた政府活動報告には、いくつかの重要なポイントが挙げられている。まずはマクロ経済政策に関する決意である。

 2009年の中国の経済成長率は当初の目標の8%を大きく上回り、8.7%(速報値)に達した。目下の経済成長を見る限り、中国ではすでに景気が回復している。内外のエコノミストの予測によれば、今年の成長率は10~11%になると見られている。

 だが、成長目標はなぜか例年と同じように8%に設定されている。温家宝首相は成長基盤がまだ十分に固まっていないと認識しており、今年も積極的な財政政策と適度な金融緩和政策を継続する方針である。

 人民銀行(中央銀行)は資産バブルへの懸念を抱いており、今年に入ってから2回にわたって商業銀行の預金準備率を0.5ポイントずつ引き上げ、金融政策を転換した。

 それにもかかわらず、政府国務院は活動報告で、積極的な財政政策と金融緩和政策を継続するとしている。これでは一層の資産バブルが助長されてしまう恐れがある。

選挙法の改正で政治改革は進むか

 また温家宝首相は、民主主義による政治改革を実現するために、選挙法を改正することを宣言した。改正によって、都市部と農村部がそれぞれの人口に比例して同じ割合で代表を選出するようになる。全人代代表の選出に関する都市と農村の格差をなくすのが目的のようだ。

 政治改革に向けた小さな一歩として評価できるが、問題は、これらの代表が選挙民によって直接選出されたわけではなく、人民の利益を守るよりも政府の顔ばかりうかがうことにある。