暑いインドに行ってきた。インドは今がベストシーズン。気温も日中25~30度ほどでしのぎやすい。現地の人によれば、もう少したつと連日40度を超えるようになるそうだ。

 やはりインドは混沌の国だ。たくさんの民族、様々な宗教。インドの人々は「みんな仲良くやってる。ノープロブレム!」と力強く言うが、そんなこともあるまい。過去の戦争を見れば、民族や宗教が元になっているものばかりだ。先進国はそれを利用して、民族同士を争わせて力を削ぎ、ヘゲモニーを握ってきた。

 いろいろな思惑を持ったいろいろな民族の人々が、民主主義で議論しながらやっていくわけだから、何事であれ決定から実行までに途方もない時間がかかる。高速道路のようなものを造る時も、なかなか合意が得られない。

「ナノ」の工場用地買収に農民が大抗議運動

 最近の例で言えば、タタ自動車が有名な20万円カー「ナノ」の専用工場を、コルコタの北40キロメートルに位置する西ベンガル州シングールに造ることになった。土地を買収し、工場を建設し、機械類を設置して、「さあ10月にも操業開始!」という完成間際の8月になって、土地を提供した地元農民が大抗議行動を起こした。抗議のデモ隊は4万人にも膨れ上がり、道路もバリケードで封鎖された。

 その土地は、土地収用法に基づいて西ベンガル州が農民から買収し、タタ財閥に売却したのである。だが、タタ1社のための買収が、法律で言う「公共目的」と言えるのか? というわけだ。

 大抗議運動は、地元の左翼系政治家が煽ったとも言われている(西ベンガル州は元々左派が強い地域だという)。ラタン・タタ会長の「農民に雇用の場を提供し、産業で地域をリードする」という理想は挫折してしまった。今では逆に「農民を欺して土地を取り上げた欲深い企業家」と非難されているという。

 タタは紛争の泥沼化を懸念して、シングール工場をあきらめ、デリーの西、西部グジャラート州アーメダバードに新たなナノ用工場の建設を始めた。

 新工場は港に近く(シングールは港には遠い)、ムンバイ、チェンナイ、コルコタ等への大量輸送にも、国外の輸出にも便利な場所にある。しかも、近くに発電拠点も整備されることになっており、むしろ有利になったとも言われる。

 だが、500億円と言われるシングールへの投資は「パー」になってしまったし、新工場には400億円ほどの投資が必要だ(機械はシングールから移設するらしい)。このトラブルのため、ナノの出荷は予定より大幅に遅れた。