読者の紙離れが進み、広告収入が落ち込む中、大手新聞社がこれまで無料で提供してきたオンライン記事を課金する方向へ大きく舵を切ろうとしている。
米ニューズ・コーポレーションを率いるメディア王、ルパート・マードック氏が傘下の新聞のオンライン課金を宣言しているほか、米ニューヨーク・タイムズ紙も今年、オンライン版に課金制を導入する予定で、日本でも日本経済新聞が3月下旬に電子新聞の創刊で課金に踏み切る。
インターネット上で記事を無料で読むことに慣れ切っていた読者はついてくるのか。課金モデルを成功させる秘訣はあるのか。オンライン課金の先駆的存在で、一握りの成功モデルと言われるFT.comの発行人兼マネジングディレクター、ロブ・グリムショー氏に聞いた。
唯一無二の良質なコンテンツに課金するのは当然
問 英フィナンシャル・タイムズ(FT)は米ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)と並び、主要メディアでオンラインのコンテンツ課金に成功している一握りのメディアです。
課金を始めたのもかなり早い段階でしたが、まず、どういう考え方で課金に踏み切り、今どれくらい成長しているのかお話しいただけますか?
グリムショー FTのオンライン戦略はある意味で、ずっと一貫しています。常に他媒体とは少し違っていて、オンラインで課金を始めたのも2001年と、今から9年も前のことです。
当時は課金は極めて異例で、他社はすべてのコンテンツを無料で見せ、広告モデルでビジネスを築こうとしていました。
我々は、FTではそのモデルがうまくいかないことが分かっていました。というのもFTはニッチな新聞で、国際的な意思決定権者という極めて限定的な市場に焦点を絞っているからです。市場規模で言うと、せいぜい200万人程度でしょうか。
量のビジネスができない以上、広告収入以外にも売り上げを確保する方法を探さないといけません。FTとしては複数の収入源があるビジネスを築きたいと考えました。となれば、コンテンツを売る、つまり課金するというのは当然の結論でした。
問 2001年であれば、それこそ有料モデルのウェブサイトなどほとんど存在しませんでしたから、批判もされたのではありませんか?
グリムショー それはもう(笑)。有料モデルは間違っているとか、インターネットの精神に反しているとか散々批判されましたが、我々は正しいことをやっているという自信がありました。何しろ、FTには素晴らしいジャーナリストがいて、素晴らしいコンテンツを作っています。
経済・経営問題については、世界的にも非常に優れた洞察を提供しているという自負があります。完全にユニークな記事で、ほかに存在しないのですから、それに課金するのはごく自然なことでした。
問 コンテンツに絶対の自信があるからできることですね。
柔軟性の高い課金モデルで収入源を多角化
グリムショー ええ、そうですね。価値あるコンテンツに課金するという意味では、FTのオンライン戦略は一切変わっていません。この9年間で変わったのは何かと言うと、我々が数多くのことを学んだということです。どうやったら課金モデルのウェブサイトをうまく運営できるか、以前より深く理解しました。
FTは2007年に、それまでの経験を生かして新たなビジネスモデルを導入しました。ニュースの「消費量」に基づいて課金するという画期的な方法です。読者は皆、そのステータスによって、読める記事の分量が決められます。
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