2008年秋のリーマン・ショックを引き金に、それまで比較的好調だった世界経済は恐慌の瀬戸際に立たされた。それでも、瞬間的に蒸発した需要を埋めるべく各国政府が足並みを揃えて財政出動に踏み切り、なんとか危機を乗り越えることができた。
しかし、緊急措置として実施した財政出動が、今、新たな問題へと形を変えて、再び世界経済に揺さぶりをかけている。まるで耐性を備えたインフルエンザのようだ。
危機対応で発行した国債が大きな問題に
金融危機対応として各国政府が実施した政策は主に、(1)システミックリスクを避けるために、資本を毀損した金融機関への公的資金注入 (2)需要確保のための経済対策──の2つだ。そして、そのいずれも、財源は国の借金である国債発行でまかなわれた。
たび重なる国債発行で膨らんだ政府の借り入れが、今、大きな問題となりつつある。
それでも、経済規模の比較的小さい新興国の問題であれば大きな混乱には発展しないであろうが、今、経済規模の大きい先進国で懸念が生じている。実現した時の解決への処方箋はあるのだろうか。英国などAAAの格付けを取得している国に伝播した時の影響は計り知れない。しかし、そうした危機が迫りつつある。
ユーロ圏、特にギリシャの財政が危機的な状態にあることは、JBPress でも連日のように取り上げられているし、一般の新聞でも報じられ、専門家以外にも知れ渡るようになった。ギリシャは4月以降200億ユーロの国債償還が控えており、いかに乗り越えるかが当面の注目点となっている。
財政懸念PIIGSの次は英国?
市場では、ギリシャも含めて財政に懸念を抱える国々の頭文字を取って「PIIGS」と呼んでいる。どの国を指すかお分かりだろうか? ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペインだ。
経済規模の小さいギリシャの財政問題だけでも、通貨ユーロが大きく値下がりしてしまった。その上、ギリシャに続く国がいくつも控えているというのだ。そして、これがG7メンバーでもある大英帝国にまで波及した時、その影響は計り知れない。
英国が世界の舞台に復活したのは、自由化された金融市場によるところが大きい。金融立国は、高い格付けを礎にした信用が必需品だ。そのため英国では、金融危機に際しては大手銀行グループのRBS(Royal Bank of Scotland)やロイズなどに対して公的資金の注入を行い、その不安の沈静化を図った。
民間金融機関の信用リスクを、政府が肩代わりした格好だ。また、景気対策に伴う民間需要の肩代わりに、政府は財政出動を余儀なくされた。しかし、景気が本格的に回復する兆しは見えず、税収減に歯止めがかからない。昨年来の財政出動がどのくらい英国を蝕んでしまったか。英国の財政収支の年度別の累計を視覚化したのが次の図だ。(単位は億ポンド)