景気が悪くなると中央銀行叩きが流行するのは東西を問わないが、民主党政権の特徴は日銀の政策に露骨に介入することだ。

 菅直人財務相は、衆議院予算委員会で「1%程度のインフレ目標が望ましいという認識は(日銀と)一致している」と述べた。これに対して日銀の白川方明総裁は2月18日、金融政策決定会合後の会見で「インフレターゲットは意味のある目標ではない」と述べた。認識は一致していないわけだ。

 マクロ経済学は昔からイデオロギー論争の場になってきたが、インフレ目標ばかり話題になる日本の状況は特異である。海外では、インフレ目標の是非が論争になることはほとんどない。

 G7諸国でインフレ目標を明示しているのは英国とカナダだけで、FRB(米連邦準備制度理事会)もECB(欧州中央銀行)も拘束力のある目標は掲げていない。経済学者の間でも、物価安定目標としての有効性は認められているが、中央銀行がデフレをインフレにすることができるかという問題については否定的な意見が多い。

 2000年代前半にはデフレが深刻化したため、日本銀行が政策金利をゼロにし、通貨供給を増やす「量的緩和」を行なったが、デフレを脱却できなかった。これは不良債権の処理に際して銀行の経営が不安定になった時、その資金繰りを支援して金融システムを安定化させる役には立ったが、景気対策としての意味はほとんどなかった、というのが白川総裁の総括である。

日銀が通貨を増発しただけではインフレは起こらない

 インフレ目標を求める人々は、よく「日銀がお金をばらまけばインフレになる」と言うが、これは日銀が供給するマネタリーベースと市中に流通するマネーストックを混同した議論だ。

 日銀の市場操作では、都市銀行などから短期国債などを買って銀行の準備預金口座に入金するが、増えた通貨を銀行が企業に貸し出さないと、マネーストックは増えない。

 通常はマネタリーベースが増えると金利が下がるので、企業の借り入れが増えるが、現在のようなゼロ金利状況では、金利はそれ以上は下がらないので、通貨をいくら供給しても資金需要は増えないのだ。