2007年に新たに就農した人の数は約7万人。そのうち半数を60歳以上の高年齢層が占めるのに対して、39歳以下はたった2割、1万5000人にも満たない。つまり新規就農者は、定年退職や子どもが巣立った後の脱サラ組が「第二の人生」を歩むといったケースが多数派。残念ながら、将来の日本を担う若い農業人材を十分に確保できているとは言い難いのが現状だ。

 しかしそんなお寒い事情とは裏腹に、この10年ほど大学の農学部人気が続いている。文部科学省の「学校基本調査」の学部別学生数でも、減少の一途をたどる人文科学分野とは対照的に、平成以降、増加を続けているのだ。若者の「農」への関心は確実に強まっていると見ていい。(文中敬称略)

難しい非農家からの就農

農水省、農山漁村における雇用対策を発表

農業に関心を持つ若者は多いが、実際の就農はハードルが高い(資料写真、原稿とは直接の関係はありません)〔AFPBB News

 「農家以外の家庭に育った若者が、職業として農業を選ぶ際の、具体的なノウハウを示しているものが何も無い。農業の危機と叫びながら、新規就農者の育成が全く進んでいない」

 自らが試行錯誤を繰り返しながら実践してきた「儲かる農業」の手法を、著作や講演を通じて積極的に公開している農業生産法人・トップリバー(長野県御代田町)社長の嶋崎秀樹は、農産物の生産と同じように、農業人材の育成に力を入れている。

 菓子メーカー・ブルボンの営業マンだった嶋崎は、1988年、29歳の時に脱サラ。岳父が経営する佐久青果出荷組合に転職し、初めて「農」との接点を持った。

 転職当初は、流通も、商慣習も、ビジネスの世界では当然のルールが農業の世界には全く通用しないことに愕然とすることばかりだったという。

有限会社トップリバー
〒389-0206
長野県北佐久郡御代田町大字御代田3986-1

 質の高い農産物を生産すれば万事良し──ではない。営業マンにとっては「儲かることはいいこと」であり、ビジネスとしての農業をマネジメントしよう──というのが嶋崎の発想の原点となった。その後、岳父から買い取る形で出荷組合の社長に就任、さらに、レタス、白菜などの生産・販売と農業人材育成を手掛けるトップリバーを2000年に設立した。

 そのトップリバーは9年目にして年商10億円を叩き出すまでに成長。今や嶋崎は企業経営者として注目を集め、全国各地から講演依頼がひきもきらない。

農業の世界にもビジネスの常識を

 従来からの農業の世界では行なわれてこなかった、ビジネスの世界での仕事のやり方を持ち込んだことが、トップリバーの成長の原動力となった。

 利益確保のために安易な値引き交渉に応じない、積極的な販路拡大――ビジネスの世界では至極当たり前のことを、農業の世界では当たり前に行なってこなかった。