米国でのアクセルペダルに関するトラブルとリコールの渦が収まらないうちに、今度は「プリウス」をはじめとするハイブリッド動力車両のブレーキ問題が表面化し、日本でもリコール届け出に至る騒動へと燃え広がった。

 トヨタ自動車のリコールを巡るこの間の経緯に関しては、新聞やテレビといった日本のメガメディアもそれぞれに取り上げ、読者の方々にもそれぞれに思いや感想はあるだろうと思う。しかし、私の視点からすれば、まず「どこにどんな問題が発生しているのか」が具体的に示されていない。

トヨタの説明だけでは伝わらない

トヨタ自動車ホームページに記載されていた、今回の「プリウス」(3代目)のブレーキ関係のリコール内容。簡単かつ実感の伴わない概念図と、ABSコンピューターの搭載位置を示すだけでは、問題の状況と改修内容は伝わらない。改修はABS制御プログラムの書き換えだけということだから、車速が低い中でABSが作動に入る瞬間の応答を早め、その最初の1~2サイクルのブレーキ液圧減少を抑える、という程度の微修正だと思われる。
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 「ブレーキの効きが甘くなって一瞬の空走(感)が生じる」。それは、「回生ブレーキと油圧ブレーキを併用している中でABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が作動し、油圧ブレーキだけに切り替わる瞬間、この現象が発生する可能性がある」「特にブレーキをかけている途中に凍結路や凹凸路を通過してABSが作動すると、顕著となる」──。

 とりあえずトヨタ自動車が説明したのは、こういう内容である。

 おそらく、その発表、記者会見などを伝えたメディアのほとんどにとって「チンプンカンプン」だったに違いない。多少なりとも、自動車のメカニズムやハイブリッド動力システムの制御のことが理解できていれば、それなりの質問を投げかけたはずだし、それに対してトヨタ側ももっと具体的な説明をしたはずなのだが。

 トヨタは、前回取り上げた米国での「アクセルペダルの戻りが悪くなる」というトラブル2種に関して、特にペダル揺動機構の問題は、リコールを発表した後になってようやくその内容を簡単な図解で説明、さらに遅れてアニメーションを追加するまで、ただ大雑把な文章だけの説明をしただけだった。

 今回のハイブリッド動力車両のブレーキ制御問題に関しても、いまだに意味がつかみにくい文章での説明にとどめている。システムを制御するソフトウエアの問題なので説明が難しいし、メディアにも、そしてユーザーにも、内容を事細かに説明したところで理解してもらえないはず、という判断だろうか。

 しかし今日の日本では、そして欧米でも、そうした内容をきちんと筋道立てて説明すれば、十分に理解できる人々は決して少なくはない。特にハイブリッド動力システムのような「先進的な」技術に関心を持ち、それを購入して使ってみようと考える人々の中には、そういう人は少なくないはずだ。

 まず彼らが内容を把握し、いたずらに不安を覚える必要はないということを理解してくれれば、それが騒動を鎮静させる一助になる。もちろんメディアも、まず問題を明快に説明することから始めるから、報道の内容も少しは理性的な方向に向かうはずである。

 現状の、非常に断片的な情報から、プリウスを中核にしたトヨタ・ハイブリッド動力車両に起こるブレーキ効力の低下問題について、私なりの推測を組み立ててみよう。