自衛隊の災害派遣活動について記した拙著『日本に自衛隊がいてよかった』が大きな反響の声をいただいている。全ては、自衛隊の活躍ぶりが評価されてのことである。

 しかし同書でも記したように、本来、災害派遣は自衛隊の中心的な任務ではない。自衛隊はあくまでも国防を担う組織である。

 この度の大震災対処の成果は、平素の訓練や教育があってのことだ。今後、災害派遣を過剰に意識した装備調達などの防衛力整備がなされてはならないと強く感じている。

訓練の遅れを取り戻すのは容易なことではない

 そうした中、航空自衛隊小松基地所属のF15戦闘機から燃料タンクが落下した事故を受け、同機の訓練はストップ。10月31日から小松基地以外で訓練が再開されたが、1カ月近くの遅れが生じたことになる。

 今年は震災の発生で、ただでさえ自衛隊の訓練計画に影響が出ている。

 組織力の維持のため、いや「組織の意地」とでも言おうか、陸・海・空自衛隊それぞれが今年1年の計画に大きな狂いが生じぬよう、努力をしていたところであった。

 しかし、実際に生じてしまった遅れを取り戻すことは容易なことではない。指揮官たちの苦悩は想像以上であり、それこそメンタルケアの必要性を指摘する声もあるほどだ。

 ここで忘れてならないのは、災害派遣の疲れを取る間もなく再び訓練に邁進する隊員たちを激励すべきなのは、他でもない私たち国民全てだということである。

 ところが、その国民の代表たる政治家は、何かことがあれば「不安を与えてはいけない」と、即座に訓練を中止する判断を常に下してきた。

 確かに、事故が起きれば再発防止のための調査を徹底的に行うのは当然である。しかし、訓練を止めることによって練度が低下し、日本の防衛に支障をきたすようなことがあれば、それこそ国民に将来の「不安を与える」以外の何ものでもない。