20年ほど前でしょうか。日本で「自己啓発セミナー」がブームになり、社会問題化したことがあります。

 突如、知人から声をかけられ「いいセミナーだから」と説得され、3日間で7万円くらいのセミナーを受けることになります。セミナーの講師は受講者に「囚人のジレンマ」などを応用した課題を出し、いかに良心が欠けているか巧妙に自覚させるように仕向けます。自分がいかに悪い奴か認めざるを得ないように、精神的に追いつめていくのです。

 しかし、最後の最後に救いの手が差し伸べられ、多くの受講者は感動のあまり涙を流し、次の25万円くらいのセミナーも受講することを約束します。その次はどうだったか忘れましたが、トータル100万円くらいの出費になったような気がします。

 自己啓発セミナーが社会問題化したのは、セミナーによって洗脳された人たちが、会社に損害を与えるようになったからです。

 社員をセミナーに誘うくらいは大目に見ても、社の将来を担うと期待していた社員が会社を辞めてセミナー会社の講師になったり、セミナー同様の手法を社内に持ち込んでトラブルを起こすような事例が続出しました。

 社員の半分以上がセミナー受講者になったような会社の中には、彼らの起こすトラブルのため倒産寸前まで追いつめられたところもあったようです。

人はなぜカルトに引っかかるのか

 自己啓発セミナーのような精緻に構築されたものではないにしても、いわゆる甘言を弄して人をカルト、もしくはそれに類する組織に奉仕させようとする者は後を断ちません。そうした組織に引っかかった人を救い出そうと心を痛めている方も多いかと思います。

 私の知る限り、こうしたカルトに引っかかるのは、「正直者」「善良」「素直」「孤独」な人たちで、心に何がしかの渇望感、すなわち「満たされていないもの」を持っています。そうした人たちは、ちょっとしたテクニックで容易にカルトの手に落ちてしまいます。

 彼らを救い出してやろうと、「この世の常識」を教えて説得しようとしても、うまくいくことは多くありません。彼らは正確な知識を持ってはいるが、それを肯定せず「この世の常識」自体に反感を持っていることも多いからです。