台湾の内政部(内政省)が年明けに発表した「2009年の合計特殊出生率1.0」の報は衝撃的だった。合計特殊出生率とは、女性1人が生涯に産む子供の数の平均値で、史上最低だった2008年の1.05よりも一段と低下し、「平均1人以下」が目前に迫っている。日本の1.37(2009年)や、韓国の1.19(2008年)を下回り、台湾は「少子化先進国」のトップを突き進んでいる。
不景気による所得減で子供を望まない夫婦が増えていることも出生率低下の一因だが、台湾が「おひとりさま」天国であることも影響している。生活が比較的恵まれている公務員や大企業に勤務するいわゆる「勝ち組」にもシングルがあふれていて、日本以上の非婚化傾向を日常的に感じる。
当局もここに来てようやく重い腰を挙げ、少子化対策の本格検討に入った。出産手当の支給など現行制度の拡充が柱となる見込みだが、短期間で劇的な効果を出すのは至難の業だ。
このため、出生率の向上に努めると同時に、「少ない子供から社会に有益な人材を多く育成する」(内政部児童局)という「少数精鋭」的な発想から、子育て環境などの整備を同時並行で進めていく考えだ。
戦後の人口政策が原点
台湾の少子化は今に始まったことではない。内政部の統計によると、台湾では1951年に7.04あった合計特殊出生率が1984年に人口規模の維持に必要とされる2.1を割り込み、その後も長期減少傾向に歯止めがかかっていない。
日本が植民地統治していた台湾では、1945年の終戦以降、中国大陸から100万人とも200万人とも言われる中国人(外省人)が国民党軍とともに逃れてきた。日本人の引揚者は民間人と軍人の計50万人弱だったことから、人口が短期間で爆発的に増加したことになる。終戦直後の台湾の人口は450万人前後とされる。
加えて、医療技術の進歩や食糧事情の改善により死亡率が低下し、人口増に拍車がかかった。このため、当時の政府は1950年代後半になると、家族計画の名の下に人口調整に着手。これが奏功し、出生率は低下していく。ある40代半ばの女性は「親の世代では10人近く兄弟がいるのは当たり前だったが、われわれの代に4人前後に減り、その後は2人以下に減っていった」と振り返る。