今回は今話題の「ソーシャルイノベーション」について考えてみよう。

 明確な定義は未だ定まっていないが、ソーシャルイノベーションとは「社会的課題を、国の政策や税金を使わずに、イノベーティブなビジネス手法を使って解決すること」と言えよう。

 この連載の始めに明らかにしたように、イノベーションとは技術革新だけのことではない。新しいビジネス手法や新市場の開拓、さらには新しい組織形態もイノベーションなのである。したがって、ソーシャルイノベーションとはまさに社会的課題に対するイノベーティブな取り組みを指すのである。

 一方、社会的課題とは、いわゆる貧困、南北格差、福祉、失業、インフラ(社会基盤)整備、教育、差別撤廃、公共事業などなどである。これらの諸問題は、本来政府の政策や税金を使って解決されてきた。

 しかし、政府の仕事は官僚的で非効率、しかも採算を度外視している。また、多くの先進国は厳しい財政難に直面している。特に、日本の財政赤字はすべて合わせると1000兆円とも言われ、世界的に見ても極めて深刻な状態にある。

 そうした背景の中で、社会的課題を民間によるビジネス手法で解決しようという動きが注目を集めているのである。

農民へのわずか27ドルの貸し付けで始まった金融事業

 面白いことに、こうした動きに先鞭をつけてきたのは、先進諸国の人々ではなく、むしろ最貧国の1つであるバングラデシュのイノベーティブな人々であった。

 中でも、BRAC(バングラデシュ農村向上委員会)とグラミン銀行はその先駆者として知られている。特に、グラミン銀行とその創設者ムハマド・ユヌス博士は2006年にノーベル平和賞を受賞したことによって一躍有名になった。

 グラミン銀行とは、数千円程度の資金を貧しい農民、特に女性たちに貸し付けることによって農業や商工業を再生し、バングラデシュから貧困を根絶しようというマイクロファイナンス機関である。