「5年前ワシントンは中国を恐れていなかったが、今我々は中国を懸念し始めている」。今回ワシントン出張で最も印象に残った言葉だ。過去30年間米政府内外でアジア政策に関与してきた旧友のこの一言が、現在の米中関係を象徴しているように思えた。今回はワシントンから見えた中国について書きたい。

米国を覆う慢性不況の影

米デモ、首都ワシントンなど各地に飛び火

ニューヨークで始まった政府への抗議デモは首都ワシントンにも飛び火した〔AFPBB News

 1年ぶりでワシントンを訪れた。気になったのは、今この街に漂う何とも言えない不満と閉塞感だ。1980年代のようにホームレスがあふれているわけではない。

 コロンブスデーの3連休中、宿泊先のあるジョージタウン地区は消費を謳歌する若者でごった返していた。されど、昔とは異なり、どうも雰囲気が違う。

 10月10日付のニューヨーク・タイムズがその理由を報じていた。2007年12月から2011年6月までに、米国の平均世帯収入はほぼ10%減少したという。

 失業率は若干改善し再就職者も増えたようだが、再就職で収入は平均で17.5%も減ったらしい。勝者と敗者の間の経済格差は今も拡大しているのだ。

 米国の有力マスコミは9月17日にニューヨークで始まった「ウォール街占拠運動」を連日報じている。

 この民主党系リベラル、若年失業者、経済的弱者などによる抗議運動は、2009年に始まった「ティーパーティー運動」と同様、米国経済の停滞と格差拡大が「忍耐の限界」を超えつつあることを示している。

 10月11日夜に行われた共和党大統領候補者による討論会では、中国を批判する発言が続出した。8人の参加者中、中国批判を避けたのはハンツマン前在中国大使1人だけ。

 一昔前の「日本叩き」を彷彿させるではないか。今日の米国内政治において「中国叩き」がいかに効果的であるかを物語るエピソードだ。