異色の民間エコノミスト・高橋靖夫氏が12月20日午後10時、東京都渋谷区広尾の日赤医療センターで息を引き取った。

 遺作となった『金本位制復活! アメリカ復活のスーパーシナリオ』を上梓したのが11月末。その月25日、見本刷りができたと喜んで現れた表情には、今にして思えば、既にただならない様子が看取できた。

バブル崩壊の直前に不動産をすべて売り払う

 東洋経済新報社から出たことをことのほか喜んでいた。経済書の版元として老舗中の老舗から出版できたことは、氏にとっては、自身の仕事が正当な認知を得たことを意味した。人生の報奨だったろう。ほどなくして売れ行きの好調と、増刷の話がもたらされた。何よりの薬だと言っていた。

 独学、独行、独断の人だった。

 若くして貸しビル業に手を染め、都心や東中野に5棟まで増やした。

36歳、2作目となる『80年代の蓄財方式・金投資入門』(KKベストセラーズ)を書いた頃の高橋靖夫氏

 これをすべて売り払い、現金化したのは、バブル経済が崩壊する直前のことだ。

 あたかも、「日米構造協議」が米ブッシュ(父)政権と日本との間で始まろうとしていた。日本経済には米国産品の浸透を阻む構造的障壁があるとして、米国はその撤廃を迫る圧力をかけようとしていた。

 ある日の新聞に、何が協議の問題とされ、取り上げられることになるのか列挙した記事を見出す。そこに「土地問題」の文字を認めた高橋氏は、バブル潰しの予兆を嗅ぎ取った。

 それを潮に、すべての不動産を売り切り、手仕舞いをした相場観の冴え――。のちに高橋氏を知ることになる友人の多くは、ここに異能の才を見出した。

 生涯、金(ゴールド)と貨幣について勉強し、たくさんの本を書きながら、金投資を自ら手がけた形跡はない。「手張りをすると目が曇る」からだと言っていた。