マット安川 日本ではタブー視されがちな「改憲論議」。屈指の憲法学者である小林節さんを迎え、現状の憲法が抱える問題点や海外との比較など、あらためて検証していただきました。

憲法9条は理想、でもそれで殺されては困る

「マット安川のずばり勝負」ゲスト:小林節/前田せいめい撮影小林 節(こばやし・せつ)氏
憲法学者、慶應義塾大学教授、弁護士。日本海新聞・大阪日日新聞客員論説委員。『憲法守って国滅ぶ』、『そろそろ憲法を変えてみようか』(共著)など著書多数。(撮影:前田せいめい、以下同)

小林 私は改憲論者で、憲法改正はしなければいけないと考えています。例えば、憲法9条はとても不思議なものです。

 前文には、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して・・・」とあります。つまり周りの国々はみんな平和主義者で、公正で、信義があるから、それに委ねて我々の生存を守ろうという、あなた任せで決めたものなのです。そして、戦争をするための軍隊を持たないという空想主義の上に我々は暮らしてきました。

 しかし、ロシアはいつ攻めてくるかもしれないし、現に北方領土を占領しています。北朝鮮は日本に向かってミサイルの練習をやっている。中国は軍事大国化しており、尖閣諸島事件などが起きた。

 つまり、諸国民の公正と信義を信頼できない環境にあるわけです。塀の外に武器を持ったならず者がウロウロしている状態です。自衛隊はありますが、それは法律家や政治家がウソをついて持ったもので、しょせんウソの上の自衛隊ですから、いざという時にリキが入りません。

 9条を世界に広めていくというのは理想、究極の目的としてはいいと思います。ただ、日本だけが持っているのでは、日本だけが袋叩きに遭う、そのことを危惧しているわけです。

 理想としては9条は正しい、だけど理想を言っている間に殺されては困ります。

 国際問題、尖閣問題を見ても、震災復興を見ても、私に言わせれば憲法に欠陥があるから国家権力が動けないということです。憲法だって人間が作るものです。人間という不完全なものが、見たこともない将来のために作る以上、間違いはあり得るんです。