野田佳彦新首相は8月15日のブログ記事で、Economist誌の「日本化する欧米諸国」という記事に「衝撃を受けました」と書いている。この記事を紹介したあと、彼はこう決意を表明する。

 <わが国に対する海外メディアの厳しい視線を強く感じました。そして、「やるべき事をやっていない」と、多くの国民の方々こそが思っているのではないでしょうか。 今、日本の国政に最も求められているのは、危機に際して「やるべき事」を実行することです。>

 「やるべき事を実行する」というのは同語反復で、問題は何が「やるべき事」かである。Economist誌も指摘するように、それは明白だ。政府および民間の過剰債務を減らし、成長分野への投資を増やすことである。

増税から逃げて日銀を叩く政治家たち

 ところが先週末の民主党代表選挙では、政府債務の削減について言葉を濁す候補が多かった。増税に言及したのは野田氏だけで、あとの候補は「今は増税の時期ではない」とか「景気がよくなってから」とか、問題を先送りする発言が目立った。

 確かに歳出削減もしないで増税が先行すると、税率を上げてもGDP(国内総生産)が下がったら税収も下がるおそれがある。したがってGDPを上げることが重要だが、そのために財政支出を増やすと財政赤字はさらに悪化する、というジレンマに陥ってしまう。

 財政赤字を増やさないでGDPを上げる方法は金融政策しかない――というわけで、国債の日銀引き受けとか量的緩和を唱える候補が多かった。要するに、国民のいやがる増税から逃げて、日銀をスケープゴートにしているわけだ。

 お札をどんどん印刷すればデフレも円高も終わるなら、これほど簡単なことはない。日銀はそんなことも知らないほどバカなのだろうか?

失敗に終わったアメリカの金融緩和

 残念ながら、経済政策にそんなフリーランチはない。それを実証したのが、最近のFRB(米連邦準備制度理事会)の政策である。ベン・バーナンキ議長は、かつてプリンストン大学教授だった時、日銀のデフレ対策を批判して「通貨供給を際限なく増やせば、いつかはインフレが起こる」と主張した。