行き詰まったアメリカ型の資本主義の後に世界が求めるのは、東アジアの「陰陽」の思想だと、独立系シンクタンク 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所代表の原田武夫氏は、著書『脱アメリカ時代のプリンシプル』の中で大胆な仮説を展開する。

 日本経済は、少子高齢化による社会保障コストの増大、円高による産業の弱体化、膨大な国債発行残高など、多くの難題を抱えている。

 原田氏によれば、そもそもこれらの問題は明治維新以降、欧米型金融資本主義が急激に流入したことで日本がいびつな発展を強いられた結果であり、韓国や中国など東アジア諸国が共有する課題でもあるという。こうした問題意識から『脱アメリカ時代のプリンシプル』は日本、韓国、台湾で発売されており、近く中国(広東語)でも発売予定だ。

 果たして、日本はアメリカ型資本主義を脱し、東アジア文化圏が重視してきた「均衡」、「足るを知る」経済に立ち戻ることができるのか、原田氏に聞いた。

行き過ぎた資本主義からバランストエコノミーへ

 著書の中で、資本主義のあり方をめぐる欧米諸国の意識の変化を指摘されていますね。

原田 武夫(はらだ・たけお)氏
1971年香川県生まれ。1993年東大法学部在学中に外交官試験に合格し、外務省入省。在ドイツ日本大使館勤務、アジア大洋州局東アジア課課長補佐などへて2005年退職。現在、株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)代表
(撮影:前田せいめい、以下同)

原田 象徴的なのは、2010年あたりから「エクセッシブキャピタリズム(行き過ぎた資本主義)」に対して「バランストエコノミー(均衡ある経済)」という言い方がされてきていることです。

 欧米諸国は短期的な資本移動が世界全体にひずみを引き起こすことに気づき始めている。バランスの取れた経済に切り替えようという意識が見て取れます。

 アメリカでは1970年代くらいからイノベーションをやめてしまい、そのため経済の自然成長は止まっています。その後はマネタリズムで、つまり貨幣の供給量を増やして名目GDPを上げるという、かりそめの経済成長を続けている。

 そんな中、世界の資金循環で増えたお金を溜め込んでいる東アジアに対して、欧米諸国は断続的にその富を放出するように促してきました。日本との関係でいえば、円高もそういうことです。だいたい10年に1回ぐらい、これを繰り返してきた。

―― 原田さんはそのバランスを「陰」と「陽」という言葉で表現していますね。

原田氏 「陰と陽」といっても、いわゆる風水占いの話ではありません。「出」があれば「入」があり、物事には収支があるということなのです。

 マネタリズム的な発想でお金を回すと、資金循環を早めて効率を上げようとしますから、例えばボツワナのような廃墟だった国にお金を入れて一気にバブルにしてしまう。それを吐き出させることでパーッと儲けるわけです。振幅が大きくなる。