世界の中の日本

南京「大虐殺記念館」に日本の漫画をインタビュー~作家・石川好氏(上)

2009.10.19(月)  河野 通和

石川好氏インタビュー(下)「中国では危険な企画、だが日本の漫画の力を信じた」

河野 今年の終戦記念日8月15日は、中国・南京で迎えることになりました。石川さんが3年がかりで実現にこぎつけた南京「大虐殺記念館」での日本人漫画家による「私の八月十五日展」のオープニングにご一緒させていただいたからです。

それにしても、いわゆる「南京事件」(日中戦争下の南京で、1937年末から翌年にかけて起こった、日本軍兵士による大規模な中国人殺戮・暴行・略奪などの事件)については、犠牲者数や個別資料の真偽等の事実検証を巡って、日中間でも日本国内でも、いまだに激しい論争が続いています。

南京で、しかも8月15日を選んで日本漫画展を挙行

「大虐殺記念館」入口の壁面には「30万」の文字

 そうした過程で、南京「大虐殺記念館」は「犠牲者30万人」の大きな文字を入口正面の壁面に掲げているように、歴史認識を巡る反日キャンペーンの一大拠点として名を馳せてきた観があります。

 ですからほかでもないこの場所で、8月15日というシンボリックな日を選び、しかも中国では一方的な加害者とされてきた日本側の「戦争体験」を描いた漫画展を開くというのは、実に大胆かつ画期的な企画でした。

 そこで、まず実現にいたる経緯をお聞きしたいのですが、石川さんが日本の漫画家を率いて「日中漫画友好ツアー」の団長として訪中されたのは、2000年8月ですね。ちばてつや、松本零士、森田拳次といった漫画家15名が参加しています。これがそもそもの発端なのでしょうか?

石川好(いしかわ・よしみ) 1947年伊豆大島生まれ。作家・評論家。65年に渡米し、カリフォルニア州の農園で4年間働く。帰国後、慶應義塾大学に入学し、74年法学部政治学科卒業。83年に最初の著書『カリフォルニア・ストーリー』(中公新書)を刊行、89年、『ストロベリー・ロード』で第20回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2003年から2008年まで「新日中友好21世紀委員会」日本側委員。現在は酒田市美術館館長。近著に『中国という難問』(NHK出版)がある。

石川 そうです。たまたま私が人民日報社の歴代社長と知り合いだったこともあって、あの会社が「風刺とユーモア」という世界でも稀な、30年の歴史を持つ週刊漫画新聞を出していることを知っていました。

 中国共産党の党中央機関紙「人民日報」を発行する会社がこんな新聞も出しているのか、と興味深く思っていました。

 そこである時、日本の漫画家が中国を訪れて、あちらの漫画家と交流する機会を設けてはどうか、できれば競作して1冊の本を作ってはどうだろうか、というアイデアを出してみました。

 それが2000年8月に実現したというわけです。本は人民日報社の紹介してくれたところから刊行されましたが、予想以上の反響がありました。

 それまで経済人、文学者、音楽家をはじめいろいろな形の文化交流が行われてきたのですが、漫画家同士が向き合うのは初の試みでした。

河野 日本の漫画家のキーマンはどなただったのでしょうか?

石川 森田拳次さんですね。彼はちばてつや、赤塚不二夫さんらと同じく旧満州からの引き揚げ体験者なのですが、非常に人望のある方で日本漫画家協会の理事をされていました。漫画家という「一匹狼」の集団をまとめるには彼のような人なくしては不可能でした。森田さんが声をかけることで人が集まり、そして現実にことが動いたと思います。

ギャグそのままの行動でヒヤヒヤさせられる

自著にサインする(左から)森田拳次氏、石川好氏、ちばてつや氏

河野 以前、石川さんから「中国に誰を連れて行って面白いかと言えば、漫画家がダントツに面白い」という話を伺いました。どういうところが面白かったのでしょうか?

石川 とにかくハチャメチャなギャグを商売にしている人たちですよね。本人たちのやることも漫画作品そのままなんです。言葉を換えれば、団体行動には最も不向きな集団です。統率が取れない。だらしがない。もう手がつけられません。

 ちょっと目を離すと、女の人について行って似顔絵なんかを描いている。それを子供たちが取り囲んで人だかりがしているわけです。そんなことがあっちでもこっちでもという具合ですから、ツアーの団長はハラハラのし通しです。

 ある時、要人との会見があるというのにいつまでたって…
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