前回に引き続き、今回も内外マスコミで報じられた「米中貿易戦争」の実態について検証したい。
既に述べた通り、米中間の経済上の確執は最近突然始まったわけではない。それにもかかわらず、今回の中国製タイヤに対する米国のセーフガード発動をきっかけに、米中双方が態度を硬化させたように見えるのは一体なぜなのか。
まずは、米国側の国内事情から見ていこう。
米国の保護主義
一時鳴りを潜めていた米国の保護主義が昨年あたりから本格的に復活し始めたようだ。直接の引き金は昨年秋の金融危機に端を発した景気後退であろうが、既に触れたように、バラク・オバマ民主党政権の成立とも決して無関係ではない。
米国の保護主義といえば、悪名高い「バイ・アメリカン」条項が典型例だが、実はこれ以外にも米国には自由貿易を制限する措置が少なくない。最近問題となっている例をいくつか挙げてみよう。
バイ・アメリカン条項 | 2009年2月に成立した米国再生・再投資法に基づく公共建築物などの建設、改築、維持、修復と国土安全保障省の衣料品等の調達に、米国で生産された鉄鋼製品・繊維製品の使用を義務づけるもの |
ハイヤー・アメリカン条項 | 同じく米国再生・再投資法に基づき、米政府の支援を受けた金融機関が専門職一時滞在者を新規に雇用することを原則として禁止するもの |
ビッグ3製自動車の政府調達 | 2009年4月にオバマ大統領は、米政府調達局が公用車を購入するに当たり、米国再生・再投資法に基づき、(同局と契約関係にあるビッグ3の)米国製低燃費車1万7600台を調達する旨発表 |
米製電気自動車への金融支援 | 米下院で可決された地球温暖化対策法案に盛り込まれた自動車メーカーに対する金融支援策は、対象を「米国で開発、生産された電気自動車」に限定している |
低燃費自動車買換法案 | 2009年3月に米下院に提出された低燃費車の買い換えを助成する法案では、当初、助成対象を米国または北米で生産された車両に限定していたが、その後当該部分を削除して下院で可決 |
電気通信分野の外資規制 | 現行の連邦通信法は、外国による無線局の免許に対する直接投資を20%以下に、間接投資を25%にそれぞれ制限している |
パルプ黒液への優遇税制 | 米のバイオ燃料優遇税制を悪用し、パルプ製造の副産物である「黒液」をバイオ燃料化して税を軽減された米国のパルプ製造業者がカナダの同業者に比べて優位に立っている問題、米加間では主要な貿易問題となっている |
それでは、オバマ政権は保護主義志向が強いのかといえば、必ずしもそうではない。むしろ、同政権の経済チームには自由貿易を信奉する人々が多い。問題はオバマ政権を取り巻く様々な利益集団である。