ダン・ラザー氏は20年以上にわたり、米国3大ネットワークテレビ局の1つ、CBSの看板ニュース番組「イブニングニュース」で大物アンカーとして君臨した。2005年3月に一線から退いた後、現在はインターネット上のHDNetで「ダン・ラザー レポーツ」を担当している。
そのラザー氏が2009年7月28日、コロラド州のアスペン・インスティテュートで講演し、危機的状況にある米ジャーナリズムの復活には、オバマ大統領のリーダーシップの下で「メディアの公共性を考えるホワイトハウス委員会(White House Commission on Public Media)」を設置することが望まれると主張した。
近年、米国では市場原理主義に基づき、メディア関連の規制緩和や資本集中が一気に加速した。その一方で、新聞やラジオ、テレビなどのジャーナリズム機能は足腰が弱くなったと指摘される。
これに関してラザー氏は、米国民が真に必要とするニュース報道について考えるには、ホワイトハウスが中心となって国民に問題意識を示すことが重要だと言う。
米メディア業界は制作現場の大幅な人員削減などに踏み切り、何とか収益を確保しようと苦闘を続ける。もし、ホワイトハウス委員会がメディア改革に腰を上げれば、既存の報道機関が存続できる「新たなビジネスモデル」の構築に向け、提言してくれるのではないかと期待されている。
ラザー氏はメディアの現状を「米国民主主義の存続」に関わるものであり、事態が深刻化すれば米国はメディアの独立性を失うことになるとも警告している。
全米に広がる新聞危機、過去1年半で業界は2万人削減
アスペン・インスティテュートで講演した後、ラザー氏は8月9日付の米紙ワシントン・ポストに寄稿した。この中では、大統領を巻き込む必要性を踏み込んで説明している。
ラザー氏の提言は連邦政府によるメディア企業への緊急援助や、メディアへの介入を求めるものでもない。オバマ大統領が前面に立つことで、立場を超えて人々を結集させることが重要だと主張しているのだ。その理由として、ラザー氏は「この問題に対する人々の関心を引くための唯一の方法だ」と強調する。
すなわち、米国の民主主義システムでニュース報道がどのような役割を果たすべきか、広く国民の議論を呼び起こすことを期待しているのだ。これにより、新聞をはじめラジオ、テレビなどの既存の報道機関がいかに壊れやすく、脆い状態にあるかを理解してもらいたいというのである。
ワシントン・ポストによると、米新聞業界では過去1年半に2万人に上る大規模な雇用削減が断行されている。フィラデルフィアやシカゴ、ロサンゼルス、ミネアポリス、ボルティモアなど、米国を代表する都市の名門新聞社が連邦破産法11条(チャプター11)の適用申請に追い込まれ、「新聞危機」は全米に広がり始めた。