「うちも3月に比べたらだいぶ中国人観光客が戻ってきていますよ」――、銀座4丁目の交差点では、そんな立ち話も聞こえてきた。JNTO(日本政府観光局)も、2011年6月の訪日外国人数は前年同月比36%減ではあるが、その減少幅は縮小に向かっているという。各業界も訪日旅行の復活に大きな期待を寄せている。
しかし、中国では放射能汚染の懸念から、依然として訪日旅行への不安が消え去っていない。上海ではこのシーズン、各旅行会社は新聞に広告を積極的に出すなど夏休み企画の売り込みの真っ最中だが、日本への団体旅行はメイン商品から外され、積極的に売ろうという気配はない。「日本関西4日間3600元」など、むしろ安さで勝負といった感じさえある。
この夏、家族旅行を計画している王麗華さん(仮名、会社管理職)も「日本は対象外です」ときっぱり。「少なくとも若者は行かない。出産を予定している人ならなおさら。行くとしたら、放射能を恐れない高齢者なのでは」とシビアだ。
個人利用のみならず、会議や学会も延期が相次いだ。ある医師は「毎年夏に日本で学会が開催されますが、今年は、中国の医師はほとんどが行きたくないという意思表示をしています」と話している。
ビジネスマンも沖縄マルチビザに注目
他方、日本行きが敬遠される上海で、「沖縄マルチビザ」がちょっとした話題になっている。
日本政府が中国人の個人旅行者を誘致するために発給する、「3年以内に何度でも日本訪問ができ、1回の滞在は90日まで可能」というビザである。7月1日より発給が始まった。正式名称は「沖縄数次査証(個人観光)」という。
「家族のうち1人が取得すれば、2親等以内の家族すべてが同ビザを取得できる」というメリットもあり、「それなら家族で日本に買い物に行ってみたい」といった中国人も少なくない。
上海では、一部の中国人ビジネスマンがこれに注目している。1回目の渡航で沖縄を訪問し、1泊して観光しさえすれば、2度目からは短期の商用目的にも使うことができるためだ。
語学学校を経営し、これから日本の企業との提携を増やそうとしていた李敏さん(仮名)にとっては、渡りに舟でもあるようだ。これまで日本から商談の要請が何度かあったが、ビザ取得が容易ではなく、諦めた経験もある。だが「3年間有効なら話は違う、日本への出張がだいぶ楽になるかもしれない」と期待をのぞかせる。
また、従来の短期商用ビザは日本の企業が招聘状を発行する必要があったが、これが必要なくなる分、「行きやすくなる」と話している。