「米中頭越し外交」というトラウマが最近再び日本で蔓延し始めた。7月下旬ワシントンで開かれた米中戦略・経済対話に関する本邦各紙の報道がそれを証明している。今回のトラウマはかなり重症のようで、第一線の経済・外交専門記者ですら例外ではない。今流行の米中「G2」論の実態を検証してみよう。

報じられた「深化する米中関係」

米中戦略・経済対話が閉幕、多分野での協力強化で一致

米ワシントンD.C.での米中共同記者会見中、バラク・オバマ米大統領のサイン入りバスケットボールを掲げる中国の王岐山副首相(2009年7月28日)〔AFPBB News

 最近の本邦主要紙に見られる最近の「米中関係の進展」に関する報道を要約すれば、次のようになる。

(1)最重要の2国間関係
オバマ大統領の「米中関係は世界のどの2国間関係よりも重要」とする発言は「G2時代」の到来を予感させる。

2米中協力・対話の深化
今回米中が議論した分野は金融・経済問題だけでなく、気候変動、核不拡散、中東和平、イラン、北朝鮮など広範にわたり、両国の戦略的な対話・協力関係は急速に深化している。

3米中関係の対等化
今回の対話では大量の米国債を握る中国が主導権を握り、米国が「強気」の中国に対し「配慮」をにじませるなど、米中の攻守が逆転しつつある。

 こういったところだろう。しかし、本当にそうだったのだろうか。これらを一つひとつ検証してみよう。

オバマは「最重要の2国間関係」と言ったのか

 答えは否である。今回オバマ大統領は米中関係について「as important as any bilateral relationship in the world」と述べただけだ。「誤訳」というよりは、むしろ「誤報」に近い。不幸にも配信元が有力通信社だったこともあり、日本では誰もが信じて疑わなかったのだと思う。

米中戦略・経済対話開幕 両国関係の重要性を強調

「米中戦略・経済対話」の開幕式で演説を行うバラク・オバマ米大統領(2009年7月27日)〔AFPBB News

 恐らく、このオバマ発言を聞いて最も落胆したのは出席していた中国側要人たちである。当然だろう。これまで中国国営メディアは、昨年11月の当選直後の電話会談と4月のG20での会談の機会にオバマ大統領が胡錦濤総書記に対し「米中関係は最も重要な関係だ」と述べた旨繰り返し報じてきたからだ。

 中国にしてみれば、今回のオバマの発言は明らかに「トーンダウン」だった。しかも、大統領就任以降のどの公式文書を見ても、オバマが対中関係を「最重要の2国間関係」と明言した記録はない。今頃、中国外務省の対米外交関係者は大目玉を喰らっているかもしれない。