7月6日から3日間、米国のバラク・オバマ米大統領はロシアを訪問し、核兵器削減交渉などロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領らと会談した。今回の訪問は、ジョージ・ブッシュ前政権において極度に悪化していた米ロ関係を双方が改善しようとの意欲にあふれたものであった。今回の訪ロの意義について、主として米国側の観点から整理してみたい。

 今回の訪ロの具体的な成果については、既に多くが報道されているので、本稿ではオバマ大統領のロシア経済学院(New Economic School)での演説と、オバマ政権の対ロシア政策形成の背後にあるメカニズムについて触れる。オバマ政権が、これからロシアとどのようにつき合おうと考えているかが如実に分かるからである。

「リセットボタンを押す」

オバマ大統領、モスクワで講演 米露協力関係の必要性を強調

7月7日、モスクワ中心部で行われたロシア経済学院の卒業式で講演するバラク・オバマ米大統領〔AFPBB News

 今回の訪問は、ジョセフ・バイデン副大統領の言葉によれば、両国関係の「リセットボタンを押す」ためのものであった。特に昨年8月のグルジア紛争を機に、米ロの代理戦争と言われるまでに両国の緊張が高まったのは、記憶に新しい。

 昨年11月、オバマ大統領が選出されたその日に、メドベージェフ大統領は新大統領に対しかなり挑発的にロシアとして関係改善を要求していた。両大統領の会談は既に今年4月のロンドンにおけるG20サミットで実現されてはいたが、今回はオバマ大統領が直接モスクワに乗り込んでのものでもあり、その成否が非常に注目されたのである。

 こうした意味で、米側の対ロ関係改善の意向が如実に表れたのがオバマ大統領の新経済学院での演説であった。ロシア経済学院はまだ30代のセルゲイ・グリエフ氏が院長を務め、やはり30代でメドベージェフ大統領の経済顧問を務めるドヴォルコヴィッチ氏の出身校でもある。

 1992年に西側の経済学を学べる大学院大学として創設されたまだ歴史の浅い大学だが、現在では欧米の経済学トップ・ジャーナル(学術雑誌)でも通用する優秀な経済学者が数多くいることで有名である。

オバマ大統領、モスクワで講演 米露協力関係の必要性を強調

ロシア経済学院でのバラク・オバマ大統領の話を聞くミハイル・ゴルバチョフ元ソ連大統領〔AFPBB News

 余談だが、ロシアにおける近代経済学の教育・研究は、旧ソ連時代、非常に限定されたものであったため、ソ連崩壊に伴い西側基準で経済学を学べる学校が急増した。新経済学院はそれら新設校の中でも最も成功したものの1つと見なされている。

 最も歴史が長く格式も高いはずのモスクワ大学でなく、このロシア経済学院が選ばれたのにも、ロシア固有の頑なな路線を墨守するのでなく、欧米社会から多くを学び国際社会との統合を志向する新経済学院の歩みを賞賛したい米側の意向が見て取れるだろう。

 今月7日のオバマ氏の訪問は、同学院の卒業式に当たり、卒業生の門出を祝う文脈で演説が行われた。大統領のレトリックは次のようなものであった。