今年(2009年)6月18日、インドが、中国の「山寨機(中国語読みでシャンジャイジ)」と呼ばれるメーカー不明の携帯電話機の輸入禁止を発表した。山寨機は、中国から毎月インドに約80万台が輸出されているとされ、現在までの累計で3000万台に達すると見られている。

中国市場に入りあぐねるアップル、立ち止まらない中国の消費者

中国で売られていないはずのアップル「iPhone」。ロックが解除されて違法販売されているのだ(上海)〔AFPBB News

 その山寨機がここにきて急に輸入禁止になった理由は、本来なら携帯電話やデータ通信カードが1台ずつ持っている機械の識別番号である「IMEI(International Mobile Equipment Identifier)」がないためである。

 IMEIは、どの機種が世界のどこにいてどんなサービスを受けようとしているのかを通信事業者が判断し、消費者にきめ細かいサービスを提供するためのものだが、盗難された携帯電話が不正利用されるのを防止する役目もある。

 インド側が、中国製の山寨機の輸入を突然禁止したのは、携帯電話の不正利用につながる端末を野放しにしたくないという意図があったことは確実だ。

パキスタンでも輸入が禁止に

 実はインドが禁止する前にも、お隣の国パキスタンでも山寨機の輸入が問題となり禁輸措置が取られたことがある。発展途上国でも携帯電話が普及し始め、盗難されてこの認識番号を書き換えたり消してしまって不正利用されるケースが後を絶たないため、認識番号のない機械は流通させないという動きが広がっているわけだ。

純粋なメーカー製ではない携帯電話機を陳列している小売店

 それでは、当の中国はどうなのだろうか。実は中国国内でも大きな問題となってはいる。ただし、問題になっていてもその利用については意外に鷹揚なのも事実だ。

 山寨機が中国国内に流通し始めたのは昨年(2008年)初め頃からだった。それ以来、何度も問題にはされてきても市場は絶えることなく、むしろ中国に住んでいる人間の皮膚感覚では、ますます山寨機市場は活気を帯びていくように感じられた。

 初めての携帯電話機(=山寨機)を入手し、嬉しそうな顔で、ボタンを触り音楽を流し写真を撮る出稼ぎ労働者を最近は町でよく見かけるようになった。正式なメーカーの製品には手が届かなくても廉価な山寨機なら買うことができる人たちが増えている。携帯電話を持つことはクルマや高級家電製品を買う前のステータスと考えられるようになり、違法だと知っていても廉価な山寨機に手が伸びているようだ。

 2008年は「山寨機」という言葉自体が流行語にもなり、北京五輪や四川大地震などと並んでその年を代表するキーワードの1つになった。中国政府工業および情報化省(工業和信息化部)によれば、2008年の1年間だけで携帯電話利用者は約9500万人増加し、現在でも毎月1000万人近い人が新たに携帯電話を利用するようになっている。

 正確な数字は分からないが、実は、利用者増加分の多くが山寨機によるものと見られている。

 ここで山寨機とは何かを説明しよう。山寨機とは、携帯電話に限らず、メーカー不明の機械製品を指す。携帯電話機の場合なら、安いものでは日本円にして3000円以下で買える。正式な携帯電話機だと日本円で約1万円から数万円はするから、実に価格差は数倍から場合によっては10倍もの開きがある。