関東地方は6月中旬まで梅雨寒が続き、長袖・長ズボンで過ごすことが多かった。電力不足が懸念される折りから、蒸し暑いよりはましなのだろうが、天候不順というのはどこかしら気持ちを不安定にさせるものである。

 主夫という立場でもあり、私も梅雨時は食べ物の管理に気をつけている。余り物はできるだけ出さないようにして、タッパーに入れて取っておくことも極力控える。日にちの経った食品は、一見大丈夫そうに見えても、万一のことを考えて潔くゴミ箱に行ってもらう。

 冷蔵庫は食品を冷やす器具であり、衛生状態を保証するものではないと私は思っていて、このあたりの感覚は学生時代にフィリピンや中南米を旅したことで培われたのだろう。

 旅行中に病に倒れたら、場合によってはそのまま死に至る。マラリアは薬の服用で予防できるが、一番恐いのは食中毒で、生ものはもちろん、生焼けの肉なども口にしないのが第三世界を旅する上での鉄則である。

 意外に見落とされているのが氷で、栓のしてある清涼飲料水は殺菌されていても、それぞれの店で作る氷に雑菌や微生物が交じっている可能性は高い。コップの衛生状態にも疑問符がつく店が多いので、壜から直に飲むのが最も安全だというのはバックパッカーたちの間では常識だった。

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 世界の中で、日本は桁違いに治安の良い国だとされている。確かに、人通りの少ない夜道を女性が1人で歩いていられるほど安全な国は地球上にそう多くはない。また、外出中にスリや引ったくりへの警戒心をさほど持たなくていいのも、ありがたいことである。

 私も1年間の中南米滞在から帰国したあとは、街が茶の間であるがごとき弛緩した雰囲気を物足りなく思いつつ、異国を旅する緊張から解放されて、母国に戻ったことを実感した。

 ところが、半年後に屋台で買ったお好み焼きが原因で、私は生まれて初めて「ぎょう虫」にかかった。すぐに病院に行き、投薬によって「ぎょう虫」は退治されたが、フィリピンでも中南米でもかからなかったぎょう虫に日本で襲われたのは大きな教訓になった。