植物工場の野菜が甘く巨大に育つ理由

世界初、LED照明の植物工場が誕生するまで(後篇)

2011.06.24(Fri) 漆原 次郎
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 太陽光から隔絶された室内で、LED光を使って野菜をつくる。そんな近未来的とも思える植物栽培法が、現実のものとなっている。前篇では、この発想の生みの親であり育ての親でもある玉川大学農学部の渡邊博之教授に、研究開発の経緯やLED光を使う利点などを伺った。

 LED光を植物栽培に利用するうえでは「熱」という大きな壁もあった。だが、その大きな壁も今では乗り越えている。後篇ではさらに、LED光がリーフレタスやチンゲンサイなどの植物に与える影響を科学的視点で見ていく。さらに、植物工場がどのように発展し得るか、渡邊教授が描いている将来像も紹介したい。

 発光ダイオード(LED)の照明としての特徴は、赤や青などの単色光を集中的に与えることができる点にある。そんなLEDを使って、野菜などの植物栽培を行ったらどうなるだろう。玉川大学農学部の渡邊博之教授は、前職の三菱化学時代から、実際にLEDを使って植物を育てる試みをしてきた。目論見どおり、植物は劇的に効率よく育った。

 だが、問題もあった。それはLEDの耐久性だ。LEDは、「電気の球」がいきなり切れるような寿命の迎え方はしない。とはいえ、照らし続けていると確実に明るさが1割、2割、3割と減っていく。

 高輝度と言われるLEDも、電気エネルギーから光エネルギーへの変換効率は赤色で20%ほどで、青色となると15%ほどしかない。残りのエネルギーは主に熱エネルギーに変わってしまう。植物工場でLEDを使う場合、高い密度で並べ、かつ、それを何層も積層させることになる。熱が極めて発生しやすい。「熱が逃げなくなると、LEDチップを傷めるのです」と渡邊教授は話す。

 いつまでもLEDの明るさを保つには、LEDチップを冷やすことが必要なのだ。渡邊教授は、問題の解決法をいくつも試みた。「液体窒素を使ってみたところ、確かにものすごく冷えました。しかし、これだとコストや環境の問題が起きるし、栽培している植物が凍ってしまいます」。

 試行錯誤の末、必要十分な解として渡邊教授は「水で冷却する」という方法を選択した。しかし、水冷部分とLEDチップの間に絶縁用プラスチックなどを用いたりすれば、やはりLEDチップの熱がこもって温度が上がってしまう。

 そこで、渡邊教授は、LEDチップを直接冷やしながらも、水からはLEDチップを守る方式を開発した。名づけて「ダイレクト水冷方式」。LEDチップに、アルミニウム基板を直接つける。そして、このアルミ基板を別の方向から15度の水で冷やす。アルミニウム基板を介してLEDを冷やすというわけだ。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


農業の進む道

就業者の高齢化と減少、国際競争力の欠如など、様々な問題を抱える日本の農業。農業改革が遅々として進まないのはなぜか。農業を覆う問題の構造を明らかにし、あらゆる方面から日本の農業を活性化する方策を探る。