思いもよらない機会が訪れるものである。
2010年暮れ、ある友人から「北朝鮮に行く気はありますか」と声をかけられた。信用できる人物である。即答はせずに会って話を聴くことにした。北朝鮮は行く機会があればぜひ訪れてみたい国の1つであった。
日朝間に国交はない。米国やフランスなども国交を持たず、彼らも原則的に渡航はできない。ただほとんどのヨーロッパ諸国を含めた162カ国が北朝鮮と国交を結んでいる。日米やフランス、韓国などは北朝鮮からすれば少数派に属する。
外務省のウェブサイトには北朝鮮への渡航を「自粛してください」とある。
その理由は(1)北朝鮮の核開発問題と核実験の実施は日本の安全保障の脅威である(2)北朝鮮は拉致問題に対してなんら誠意ある対応を見せていない(3)国連安全保障理事会の取り決めとして、国際社会全体として厳しい対応を取る、という3点である。
だが渡航が禁止されているわけではない。
行かない方が賢明との思いも脳裏にあった。それでも誰もが好きこのんで行く国ではないからこそ、逆に訪れる価値はあった。
日本人でも北京の北朝鮮大使館を通せは渡航手続きが可能
北朝鮮の一般国民と対話をしたいという単純な思いとともに、ジャスミン革命の余波や飢餓の現状、後継者である金正恩の動向など、知りたいことは多かった。
「東京と平壌を結ぶ飛行航路はありませんが、北京・平壌間の直行便が週3回飛んでいます。日本人でも北京にある北朝鮮大使館を通して渡航の申請ができます。朝鮮語ができなくても通訳とガイド、それに運転手がつきます」
友人の口調は自信に満ちていた。安価な旅ではなかったし、現地の安全性の疑念が少し引っかかっていた。すると察したように友人は言った。
「大丈夫。私はすでに何回か行っていますから。拉致されることはないです」
答えはすぐに出た。素性の知れない人からの誘いであれば断っていただろうが、平壌に行って無事に戻ってきた人間の誘いである。真冬ではなく、2011年春の渡航を目指して申請を進めた。