マイクロソフトのサティア・ナデラCEO写真提供:Penta Press/共同通信イメージズ
2025年9月、マイクロソフトとオープンAIは提携関係の延長で合意した。一方、アップルもオープンAIと提携。AI市場でも優位を巡り、両社は競争力を高めようとしている。マイクロソフト復活の立役者となったサティア・ナデラCEOの思いと手腕を凝縮した『Hit Refresh(ヒット・リフレッシュ) 』(サティア・ナデラ/グレッグ・ショー/ジル・トレイシー・ニコルズ著/日経BP 日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再編集。2014年のあるカンファレンスで、ナデラCEOが演壇でポケットからiPhoneを取り出した瞬間から動き始めた、ライバルとの新たな時代とは――。
フレンドか、フレネミーか?
必要になる前にパートナーシップを築く
『Hit Refresh(ヒット リフレッシュ)』(日経BP 日本経済新聞出版)
私がジャケットのポケットに手を突っ込み、iPhone を取り出すと、会場にはっと息をのむ音が聞こえ、あちこちでしのび笑いが起きた。最近の記憶を探ってみても、マイクロソフトのCEOがアップルの製品を見せたことは一度としてない。ライバル企業の営業会議の場であればなおさらだ。
「これは実にユニークな iPhone だ」。セールスフォースの年次マーケティング会議で私がそう話を始めると、場内は静まり返った。セールスフォースは、オンライン・サービス事業において、マイクロソフトと提携しながらも競合関係にある。「私はこれを、iPhone プロと呼びたい。マイクロソフトのソフトウェアやアプリケーションがすべて利用できるからだ」
後ろの巨大スクリーンに、そのスマートフォンの拡大画面が現れた。そこに一つずつ、アプリのアイコンが表示されていく。アウトルック、スカイプ、ワード、エクセル、パワーポイントといったマイクロソフトの定番製品、あるいはダイナミクス、ワンノート、ワンドライブ、スウェイ、パワーBIといった新たなモバイル・アプリケーションの iPhone 版だ。聴衆は拍手喝采した。
アップルは、古くからわが社最大のライバル企業だった。そのアップルが設計・開発した iPhone 上でマイクロソフトのソフトウェアが稼働するのを私が実演する。その光景は聴衆を驚かせ、新鮮味さえ与えた。マイクロソフトとアップルは一般的に、激しい競合関係にあると思われている。






